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【短編】永遠の親友 No.3
永遠の親友 No.3
カミュスの目の前には、巨大なもみの木が立っていた。カミュスは風に乱れた髪を直すと、その木を見上げる。
「期待以上の大きさだな。」
そのもみの木は他の者よりとびぬけて高く、胴回りは大人3人でやっと抱えきれるぐらいの大きさであろう。幹に触れるとざらっとした手触りが伝わり、強い木の香りが辺りに満ちる。青々とした葉が雪に映えて美しい。強風も、もみの木の近くに来るとふっとやんだ。
「どうだ。初めて見た感想は?」
「!」
カミュスが振り返ると、そこにはクリスを抱えたファーの姿があった。
「ファー・・いや、ファーミリアンネ。」
「ファーでいい。大した違いはない。」
ファーの深緑の瞳が鋭い光を帯びる。
『ファーミリアンネ』は、森の妖精王ファートゥリーが造った自分の分身とされる。王の元に勇気ある者を一人導き、その後眠りにつく。普段は深緑の瞳、黒の髪を持つ人間の姿を取るが、年齢や名前はその時々で違うらしい。
「クリスはどうしたんだ。」
「眠らせてあるだけだ。この地に入ることのできる意識ある者は1人だけだからな。」
すらすらと出てくる言葉は、7歳であるファーには到底無理であろうものだった。ファーはクリスをその場に浮かせると、彼を囲むように人差し指で円を描いた。その円はクリスの周りを一定方向に回り続け、やがて薄い球体のものになって、クリスを包んだ。クリスは穏やかに寝息をたてている。
「これでいい。では始めようか、カミュスヤーナ。」
「あぁ。」
カミュスヤーナの返事を受けて、ファーは大きく息を吸い込む。
『我が主、我、人の世に染まることなく、人の感情に流されることなく、今ここにある。』
ファーの体が音もなく浮き上がり、その周囲から風が吹き上げる。カミュスは声もなく彼を見つめている。
『今、勇気ある者ここにあり。どうかこの者の純粋なる願いを叶えてくれんことを。』
ファーの髪が逆立ち、風は更に強くなる。
『我が主、この願い聞き入れん!』
ファーの叫びと共に風がやみ、辺りは静寂に包まれる。その後二人の頭に低い声が響いた。
『私を呼ぶのはファートリアン。お前か。』
「ファートゥリー。」
カミュスの口から漏れ出た名前は、声の主の物だった。
『さぁ、カミュスヤーナ。願いを告げるのだ。』
ファーがカミュスの方を振り返り言った。
「あ・・私は・・。」
カミュスは掠れる声で呟く。極度の緊張からか口の中がからからに乾いている。それでも、一呼吸おいてカミュスは願いを口にした。
「私は自分の過去が・・知りたい。」
ファーが驚いたように目を見開いた。
自分の過去を・・覚えていないというのか。この男は。
「私は直近5年以前、13歳までの記憶が欠けている。また、その時には私の周りにそれを教えてくれる人が一人もいなかった。私は自分の存在を確かめたい。その為にどうか教えてほしい。」
『その記憶が必ずしも良いものであるとは限らない。お前の今の存在をも危うくするかもしれないが、それでも良いのか?』
「構わない。」
『では・・。』
森の王の声が聞こえなくなったかと思うと、カミュスは強い頭痛を覚えた。
「あ・・あぁっ。」
頭が割れるように痛い。締め付けられるような痛みの後、カミュスの脳裏に鮮明にそれが現れた。
『・・。』
ファーはカミュスを一瞥すると、森の王に向かった。
『ファートリアン。お前も、眠りに入るがいい。』
『・・仰せのままに。』
ファーはふと頭上にいるクリスを見つめた。クリスは先ほどからその瞼を開くことなく眠り続けている。
『バイバイ、クリス。』
もう一緒に遊べないね。半年前からずっと遊んできた僕の友達。でもいつか別れなくてはいけないことくらい分かっていたから、仲良くなりすぎないように心がけていた。心がけていたのに・・。
「ファートリアン・・。」
下から呼ぶ声にファーは顔を向ける。
「クリスを置いていくのか?」
カミュスは鋭い目でファーを見上げる。
すごいな・・あんな目に遭っても自分を見失っていない。
ファーはカミュスの心の強さに感嘆しながら、答えを返す。
『我が眠りにつく時に、我に関する記憶は全て消される。だから問題はない。』
「そんなことを言っているんじゃない!」
カミュスはファーに向かって声を張り上げる。
「大切な友達なんだろう!クリスからお前との楽しい思い出を奪い取る気なのか?」
『カミュス・・ヤーナ?』
ファーにはカミュスの言葉の意味がよく分からない。記憶を消してしまえば、クリスが寂しい思いもせずに済むではないか。
「ファーのことを全て忘れてしまうんだぞ。分かっているのか?」
『・・え・・?』
カミュスの言葉が強くファーの心に響いた。
クリスが・・自分のことを忘れてしまう。分かっていたのに、今になって、なぜ戸惑うのだろう。なぜ嫌だと思うのだろう。
『ファートリアン、何をしている。もうすぐ夜が明けてしまう・・。』
森の王がファーに告げる。ファーは、はっと我に返って、もみの木を見上げる。
『は、はい・・我が主・・。』
「ファー・・?」
今、聞こえるはずのない声がファーの耳を打った。
『クリストファー・・。』
ファーの目の前には、今、目覚めるはずのないクリストファーの姿があった。
次回完結します。
この創作物ですが、ずっと以前に自分でサイトを作った時に、確か載せた覚えがあります。その時はまだホームページビルダーとか使って作っていたと思います。年齢が分かってしまう。。今作るならWordpress使いますけど。
私の創作物を読んでくださったり、スキやコメントをくだされば嬉しいです。