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【短編】永遠の親友 No.2

永遠の親友 No.2

「ありがとう。君が助けてくれたんだってね。」
人好きする笑みを浮かべて、クリスに礼を述べる彼は、雪国では見られない姿をしていた。漆黒の髪と瞳、浅黒い赤銅色しゃくどういろの肌。思わずクリスはまじまじと彼を見つめた。

「君の・・名前は?」
「クリス、クリストファー。」
「私はカミュスヤーナ。ここからずっと南から来たんだ。」
そう言うとカミュスヤーナ、カミュスは目を細めた。まるで遠くを見つめるかのように。クリスは大きな青い瞳をくりっと動かすと、たどたどしくこう尋ねる。

「あの・・なぜ南から、こんな寒いところに来たんですか?」
「ん・・願いを叶えてもらおうと思って。」
「願い?」
クリスは驚いたように聞き返す。
「うん、北方の雪に閉ざされた村の北の森に、1本の巨大なもみの木があって、そこに火緑の最後の夜に行くと、森の精が一つ願いを叶えてくれるんだ。」

「聞いたことないなぁ・・。」
「ないと思うよ。ほとんどの人が知らない伝説だから。」
カミュスはそう言って、再び椅子に腰を下ろす。
「いつ・・行くんですか?」
「明日には行くよ。あまり迷惑かけられないし。」
本当にどうもありがとうと、カミュスは手を差し出した。クリスは戸惑いながらも自分の手を重ねた。

「クリスっ。遊び行こうぜ。」
既に見慣れた者となった彼、ファートリアンが部屋の中に入ってきたのはその時だった。が、ファーはカミュスの顔を見ると、顔を強張こわばらせた。

「ファー、カミュスさんがね。やっと目を覚ましたんだよ。」
実を言うと、カミュスはあれから3日間眠っていたのである。
「君が私を助けてくれたもう一人の子だね。ありがとう。」
「クリスが助けろって言ったから、助けたんだ。あんたのためじゃない。」
「ファー!」
クリスがいさめるようにファーに向かって叫ぶ。

「本当の事だろ。」
後ろで二人のやり取りを見ていたカミュスは、大きな声で笑い出す。
「き、君たちって、すっごくいい!」
クリスはきょとんとした顔でカミュスを見、ファーは面白くなさそうに顔を逸らす。

「そ・・そう言えば、名前聞いてなかったよね。」
「ファーだよ。ファートリアン。」
クリスがファーに代わって、カミュスに答える。
「ファートリアン?」
カミュスはファーの方をじっと見つめる。ファーはまだ顔をそらし続けたままだ。

「ファーミリアンネ。」
カミュスの言葉にファーはビクッと体を震わせる。
「どうしたの、ファー。」
普段と様子の違うファーを不思議に思って、クリスは尋ねる。
「別に・・。」
ファーはろくに返事もしないで、部屋の外へ出て行ってしまった。
「どうしたのかなぁ。」
クリスの言葉にカミュスは、すぐ戻ってくるよ。と言って、ゆっくりと目を閉じた。


北方の雪に閉ざされた村
その村のまた北方に位置する北の森
北の森は1年中雪絶えることなく、青々とした葉を茂らせた針葉樹林の森
その森の中央に巨大な1本のもみの木がある
そのもみの木には森を守護する妖精の王がいる
その王 自らがこの世界に降り立った火緑の最後の夜に、自らの元に来た人間の願いを1つ叶えてくれるという
ただそこは雪に閉ざされているため、寒さも厳しく、辿り着くことは容易ではない
勇気ある者のみがつくことを許される

森の妖精王 彼の名はファートゥリー


「ついてきちゃだめだよ。」
カミュスが困ったように隣を歩く少年に告げる。
「僕も行きたい。ファーだって行くんじゃないか。」
「ファーは私を案内してくれるんだよ。明日には一緒に帰ってくるから、待っててくれないか?」
「嫌だ!僕も行く。」

カミュスがどうする?とファーを見る。今までじっとクリスを見つめていたファーは、カミュスと目が合うとふいっと目を逸らす。
「いいんじゃないか。危ないことはないだろうし。」
深緑の瞳が深い色を帯びる。
「まぁ・・君が言うなら間違いないだろう。じゃあクリス。ファーの側から離れないでね。」
クリスは嬉しそうに笑って頷いた。金色の髪が光を受けて輝いた。

「ここなの?」
確かに遠かったけど、言ってたほど大変じゃなかったよ。そう問いかけるクリスにカミュスは笑いかけた。
「ファーのおかげだよ。」
ファーは黙ったまま何も言わない。

「これから夜までここで待ってないといけないから、二人で遊びに行ってくる?」
「いいの?」
クリスの言葉にカミュスは大きく頷く。
「やったぁ、ファーどこか行ってこよう。」
「あぁ・・うん・・。」

ファーは1度カミュスの顔を見上げると、クリスと共に西の方へ歩いていった。2人の姿が見えなくなると、空は曇り始め、風は強くなり、カミュスはその場にまともに立っていられなくなる。
「ファーが居なくなった途端にこれだ。」
カミュスは腕で風を遮りながら、先へ先へと歩いていった。

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