マガジンのカバー画像

短編小説Only

166
普段は長編小説を書いていますが、気分転換に短編も書いています。でも、この頻度は気分転換の枠を超えている。 短編小説の数が多くなってきたので、シリーズ化している(別のマガジンに入っ…
運営しているクリエイター

#好き

【短編小説】春が好きな自分と冬が好きな君

自分が好きなのは春。 暑くもなく、寒くもない、程よい季節。 何より、新緑が綺麗で、何となく気分が上向くのもいい。 新しいことに挑戦したり、新しいものを手に入れたり、自分に変化を起こすのにもいい季節だ。 夏生まれだが、あまりに暑いと直ぐに熱中症っぽい症状を起こすから、夏はダメ。体温は低めなのに、寒いのは割と平気。でも、一人でいるのが辛くなるから、冬も嫌い。 君が好きなのは冬。 一番の理由は空気がキンと冷え切って澄むから。星空がよく見える。昼間は遠くの景色もよく見える。景

【短編小説】一人にはしない

「僕はずっと美玖ちゃんのこと、好きでいてあげる。」 「ずっとなんて無理だよ。陽ちゃんだって、他に好きな人ができたり、結婚したりするでしょ?それに、あげるなんて上から目線。」 また始まったと、私はそっけなく返すと、彼はいつも大人びた笑みを返す。 「僕は、美玖ちゃんに好きな人ができても、結婚しても構わないよ。」 「何それ。」 「美玖ちゃんが一人で泣いてることがなければ、それでいい。」 「陽ちゃんに心配されなくたって、私には友達も家族も、今はいないけど恋人だっていつかは

【短編小説】会わなくても、好きだけど。

私は、今付き合っている恋人に、一度も会ったことがない。 彼と知り合ったのは、SNSで、私が推していたアーティストのことを、彼も好きだったという、ただそれだけのことだった。コメントしてみたら、返事が帰ってきて、意気投合したというだけ。 その内、SNSだけでなく、電話でも話すようになった。話す内容は、徐々に広く深くなり、話す頻度も高くなった。その内に私の中では、彼の存在が大切で特別なものになった。 彼が本当のことを話しているのかなんて確かめられないし、もしかしたら全て嘘かも

【短編小説】好きでいることの証

久しぶりに会って、話が弾み、カフェに長居をした僕達だったが、そろそろ終わりにしようと、席を立つ準備をしていた時だった。 「私、南室くんが好き。」 その言葉に、彼女の方を振り向くと、彼女は僕の視線を受けとめて、ニッコリと笑った。 「えっと。」 思わず言いよどむ。自分の聞き間違いかと思う。だって、そんなそぶり、先ほど話している間に全く出なかった。 「聞こえなかった?南室くんが好きって、言ったの。」 やはり、聞き間違いではなかったらしい。でも、なぜこのタイミングで言い出

【短編小説】会いたい人に、夢で会えた。

仕事を休んでみた。 特に用事も、予定もなかった私は、結局家でゴロゴロと過ごしている。 折角の休みなのに、もったいないと思う。 でも、こういう考えが、休んでいるようで休んでいないような状態を、生んでいるのではないか?せっかくの休みなんだから、何か普段はできないことをやろうなんて考えてしまって、でも、一人で出かけてもなと思ってしまう。 そんなことを考えていたら、私は広い部屋の中で、学生時代の同級生たちと、テーブルを挟んでしゃべっていた。 甘いサワーを飲みながら、私はこれは夢だ

【短編小説】『君の書く文章が、僕はとても好きだ。』

『君の書く文章が、僕はとても好きだ。』 その言葉を糧にして、私は今まで書き続けてきたけれど、そろそろ限界みたいだ。 パソコンの画面を見つめながら、私の手は動かない。 ここ数日、私は書けない理由を、いろいろと連ねながら、投稿頻度を減らしつつ、ここまで来た。仕事で疲れているとか、目や手を使いすぎて痛みがあるとか、単純に書くことが思いつかないとか。でも、それらの理由が取り除かれたところで、私はもう書くこと自体止めてしまいたいのかもしれないと、投稿する度に思うようになってきた。

【短編小説】僕たちは同じような事を考えてた。

自分しかいなかった部屋の隅に、いくつか段ボール箱が運ばれ、その持ち主が今日、こちらに向かって、ペコリと頭を下げた。 「これから、しばらく、よろしくお願いします。」 「・・気使わなくていいから。」 彼女は、僕の言葉を聞くと、顔をあげて、微笑んだ。 「本当にごめんね。芦田君しか頼れる人がいなかったの。」 「もう何度も聞いた。」 学生の時には、それなりにやり取りがあった彼女から連絡があったのは、一ヶ月ほど前の話。離婚することになった彼女が、次の仕事が見つかるまで、家に置いて

【短編小説】貴方は彼女のことが好きなんだと思います。

誰かのことが好きなのかどうか、それは傍から見るとよく分かったりする。たとえ、本人がその気持ちに気づいていなかったとしても。 マッチングアプリで知り合った男性と、ドライブに行くことになった。 私はその人と初対面だったが、あまり緊張はしていなかった。なぜなら、その時の私は、アプリで知り合った人と会うことを繰り返していたから。大学生になって初めてできた彼氏に振られてから、私は彼を忘れるために、少しだけ女性らしい綺麗な格好をして、異性に会う。もし、いい人だったら、そのまま付き合っ

【短編小説】雪に振られて思うこと

雪が降っている。 朝起きて、隣の畑を見たら、すでに真っ白だった。畑だけでなく、家の屋根も庭も。 綺麗だなと思った。 これから仕事でなかったら、暖かい家の中で、この雪を、雪景色を眺めて過ごせるのに、この雪の中を歩いていかなくてはならない。少なくとも、最寄り駅までは。 とりあえず、替えの靴下を持ち、少し靴底の厚いスニーカーを履いた。会社に着いたら、仕事用の靴に履き替えるので、通勤時の靴の種類は特に指定されていない。外回りや来客が予定されていれば考えるが、今日は終日社内で、

【短編小説】人を好きになるって、どういう気持ち?

「ねぇ、結ちゃん。」 「なぁに?」 柵に囲まれた砂場の中で、可愛らしいエプロンを付けて、一心不乱に砂を掘っている女の子に向かって、私は山を作っている手を止めないようにしながらも、名を呼ぶと、彼女はこちらを大きな瞳で見つめた。 「好きな子はいる?」 「いるよ。りゅーくん。」 間髪を入れずに答えられて、私の方がしどろもどろになる。それでも、私は話を続けた。 「りゅーくんのどんなところが好きなの?」 「登り棒がうまくて、歌が好きで、とってもかっこいいの。」 結の顔が花開い

【短編小説】その答えはきっとどこにもない。

私、杉本ハヅキが、学校近くの公園で、友達の葉山ミノリといつものように話をしていると、急に彼女が押し黙った。このところ、元気がないとは思っていたし、その理由も私は分かっていたが、あえて触れていなかった。 私は、手に持っていた缶のサイダーを飲みながら、ミノリが口を開くのを焦らずに待っていた。 「はーちゃん。」 「ん。何?」 「もう、卒業まで時間ないよね?」 「・・そうだね。」 彼女は私の言葉を聞いて、何かを追い出すかのように、頭を左右に軽く振った。手に持っていた缶のミルクティ