見出し画像

【短編小説】春が好きな自分と冬が好きな君

自分が好きなのは春。

暑くもなく、寒くもない、程よい季節。
何より、新緑が綺麗で、何となく気分が上向くのもいい。
新しいことに挑戦したり、新しいものを手に入れたり、自分に変化を起こすのにもいい季節だ。

夏生まれだが、あまりに暑いと直ぐに熱中症っぽい症状を起こすから、夏はダメ。体温は低めなのに、寒いのは割と平気。でも、一人でいるのが辛くなるから、冬も嫌い。

君が好きなのは冬。

一番の理由は空気がキンと冷え切って澄むから。星空がよく見える。昼間は遠くの景色もよく見える。景色を見るのが好きな君には最適な季節。

それに、服で寒さは調整できるが、暑さはどうにもならない。肌の白い君は日焼けを嫌がる。日焼け止めを何度も塗り直さないといけない、面倒くささがダメだと言う。冬生まれなのに、体温が高い君は、冬の寒さは逆に気持ちいいくらいだと喜ぶ。

そんな2人が迎えた11月の初めの連休。
11月だというのに、日中は25度以上の夏日という異常気象。
折角の休みだが、外に出たくなかった。だが、家でずっと過ごしていると困るのが、食事で。食材を買いに外に出ざるを得なくなった。

近くのショッピングモールは、休みとあって人混みが激しい。
皆、半袖など、とても11月とは思えない服装をしている。
その上、野外スペースでは、夏祭りを模した縁日まで出ていた。その横には飾りつけされたクリスマスツリーがそびえたっている。
もう季節感がめちゃくちゃだ。

「ねぇ、夕飯どうする?」
「やっぱり、カレーじゃないかな。」
「もうちょっと寒かったら、鍋でもいいんだけどね。簡単だし。」
「鍋って気分じゃないな。」
「そうだよね。」

スーパーでカレーの材料を買う。
カレールー、鶏肉、玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、しめじ。

「なんか、お腹がすいちゃったんだよね。」
「直ぐに食べれそうなもの買えば?」
「久しぶりにカップ焼きそばとか食べたいかも?」
「・・・。」

休みの日は、朝と昼に、それぞれ食べたいものを食べることにしているので、君が今、空腹なのは分かるけど、そこで『カップ焼きそば』を選ぶところからして、随分今の気候に侵されてる。少し羨ましくなったけど、割としっかり朝・昼食べている自分は、それに続くことはできない。

「アイスクリームも買わない?」
「それは美味しそうだけど。」
「食後のデザートってことで。」
「カップ小さめのがいいな。それか糖質オフのやつで。」
「いいね。それ。」

買い物かごの中は、夏寄りの食材、食べ物で占められた。
一週間分をまとめ買いするので、かなりの量だ。

「じゃあ、帰ろうか。」
「そうだね。家でゆっくりしたい。」

この季節にエアコンを使うのは、何か負けた気がするから、仕方なく窓を開けて、換気扇回しながらカレーを作って、アイスを食べるんだろう。
こんなに暑いと、くっついて寝るのは、君が嫌がるかもなと思う。

家に帰ってからのことを考えていると、開いていた掌に、君が何のためらいもなく、自分のを重ねる。
君の顔を見下ろすと、視線が合って、相手は口の端を上げた。

「冷たい?」
「ちょうどいい。ごめんね。」
「何で謝るの?」
「私の手が熱くて。」
「僕が冷やすから大丈夫。」

君の熱い体温が、少しずつ自分に移って、同じ体温になっていく。
夜寝る時も同じかも、と思って、僕は君から視線をそらす。

11月なのに、とても暑い。
春が好きな自分と、冬が好きな君には、最適な季節とは言えない。
でも、自分の冷たさを君が必要としてくれるなら、それはそれでいいのかもしれない。

僕の気持ちが伝わったのか、君は僕の手を引いて、フフッと笑った。

暑いです。夏ではないのに夏バテしそうです。
早く寒い冬が来てほしい。
元ネタはコメント欄で好きな季節をフォロワー様と話すことがあって、それから来てます。
上記内容から分かるように、私が好きな季節は冬です。

サポートしてくださると、創作を続けるモチベーションとなります。また、他の創作物を読んでくださったり、スキやコメントをくだされば嬉しいです。