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短編小説Only

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普段は長編小説を書いていますが、気分転換に短編も書いています。でも、この頻度は気分転換の枠を超えている。 短編小説の数が多くなってきたので、シリーズ化している(別のマガジンに入っ…
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2022年11月の記事一覧

【短編小説】信じられない言葉 Returns

私が話す言葉は、いつも私の彼氏には信用されなかった。 どんなに切実に訴えても。どんなに声を張り上げても。 皆、自分の周囲の人や、自分自身の心の声を信じてしまう。 だから、私の言葉はいつも小さくなって、その内、言葉を発するのも躊躇うようになって、私は彼から別れを告げられてしまうのだ。 「君の言葉は、信じられない。」と、言われて。 別に嘘をついたわけではない。 でも、私の言葉は、真剣味というか、真実味を帯びていないらしい。 「僕のこと好き?」と聞かれて、「好き」と答えても、

【短編小説】僕の目は、君の姿を捜してしまう。

もう、彼女に会ったのは、1年以上前の話で、昔の知り合いに偶然出会うということは、所詮、物語の中だけだと分かっている。でも、通勤時、彼女の最寄り駅に電車が到着すると、ホームに目を走らせるのを、止めることができない自分がいる。 彼女は、職場にいた同僚の中で、唯一、通勤に使う沿線が同じだった。そのおかげか、職場から自宅に向かって帰る際に、一緒に電車に乗る機会が多かった。電車の中では、仕事の話は思っていた以上に少なくて、お互いが家に帰ってから何をしているとか、今ハマっていることは何

【短編小説】本当は一人でいるのが、少し寂しい。

私の数少ない友人である冴子に、ホテルに入っているカフェのアフタヌーンティーを食べに行こうと誘われた。予約などは全て彼女がしてくれた。 そして、私達はホテルの最寄りの駅の改札前で待ち合わせをし、ホテルまで歩き、無事アフタヌーンティーにありつけた。 「このところ、何か楽しいことあった?」 「ほとんど家で過ごしているから。外に出るのも久しぶり。」 「こっちも暇と言えば暇だな。子どもも大きくなったから、一人で外に遊びに行っちゃうことも多いし。」 冴子は、数年前に結婚し、小学生の

【短編小説】一番、唯一、特別

某有名な歌の歌詞に、『ナンバーワンにならなくてもいい。もともと特別なオンリーワン。』というものがあった。調べてみると、『オンリーワン』は和製英語らしい。『オンリーワン』と言われると、なぜか特別なものという感じがしていたが、前述した歌詞にも『特別な』と付け足されているように、『オンリーワン』には、特別という意味は含まれていない。英語の『only one』は「ひとつだけ」という意味でしかない。 でも、『オンリーワンの存在』というと、唯一無二とか、何かしら特別なもの、であるように

【短編小説】大人になって友達を作る方法

大人になると、友達を作るのが難しいと、何かのニュースで読んだことがある。そして今、自分はそれをひしひしと感じている。 まず、同じ職場の人とは、友達になれない。そして、仕事で忙しい自分は、特に人と関わるような趣味がない。休みの日は基本一人で過ごしているし、サブスクで映画やドラマを見たり、本を読んだり、ネットを見たりとかしかしてないし。外に、買い物や散歩には行くが、別に誰かと話をするわけでもない。 学生の頃は、学校という狭い世界があったから、その中で一緒に勉強するというのは、

【短編小説】ここではないどこか 2

部屋の中には、大きな本棚があって、そこに400冊以上の本が並んでいる。本は全て薄いけど、中身より立派な表紙がそれぞれついている。若干、薄汚れたものもあるけど、ほとんどは新しく、読まれるのを、お行儀良く待っている。それらの本の中身はすべて読みつくした。というか、記憶している。 僕は本棚の前の床に寝ころんで、本を読んでいた。もう何回目かになるか分からない。記憶しているから、読む必要はないと言えばないのだが、本の手触りとか、紙の匂いとか、最後のページに書き込まれたコメントとか、何

【短編小説】季節外れの花火を、君と。

妻が出産のため、実家に里帰りをすることになった。3ヶ月くらい。 妻の実家はかなり遠く、土日の休みの度に、俺がそちらに向かうのも無理な話だった。だが、出産には立ち会ったし、その前後は有休を使って、彼女の実家に一時的に滞在させてもらった。 産まれたのは、男の子だった。自分に似ていると、妻が相好を崩して言ってくれた。役所への出生届などは、自分が提出し、会社への報告なども終わってしまうと、途端にやることがなくなった。妻とも、毎日連絡は取り合っているが、お義母さんと連携して、うまくや

【短編小説】貴方が夢に出てきました。(続 私たちは、よく眠りたいだけ。)

玉木さんと手掛けていたプロジェクトが終わったので、私達は仕事帰りに、近くの居酒屋で、打ち上げと称した飲み会を行うことになった。飲み会と言っても、参加メンバーは、私と玉木さん、2人しかいないのではあるが。 「無事終わってよかったですね。」 既に乾杯を済ませ、手元に持ったビールを口にしながら、彼がしみじみと告げる。 「まぁ、次の仕事も決められちゃったけどね。」 今回の仕事の成果がよく、私達はまた別の仕事を与えられることとなった。私と玉木さんは、今回の仕事の成果から組ませたほう