【短編小説】ここではないどこか
部屋の中には、大きな本棚があって、そこに400冊以上の本が並んでいる。本は全て薄いけど、中身より立派な表紙がそれぞれついている。若干、薄汚れたものもあるけど、ほとんどは新しく、読まれるのを、お行儀良く待っている。それらの本の中身はすべて読みつくした。というか、記憶している。
「仁詩。」
本棚を飽きることなく眺めていると、後ろから声をかけられた。紺のトレンチコートを着た説理が立って、こちらを見つめていた。
「時間ですよ?」
彼女は、手に持っていたリストを掲げて言った。そのリス