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「働く」とはいったい何なのか。

4月7日に日本政府が緊急事態宣言を発令した翌日、私も4月8日から完全なる在宅勤務状態になりました。

幸い、テレワーク環境が既に整備されている職場だったため、勤務勤務への移行は比較的スムーズに完了しました。

しかし、世の中にはテレワーク環境面の整備が追いつかず、相変わらずいつもと同じ出社を余儀なくされている方もまだ多く存在するようです。その苦しいご心中、お察し致します。

ネットのニュースを眺めている限りの情報ですが、中には会社の(経営者の)非現代的な価値観から在宅勤務を許してくれない、と嘆きの声を報じるものもありました。

こういった報道を見るたびに、働くとはいったい何なのかを考えてしまいます。

命に危険が及ぶかもしれない可能性がある中、いつもと同じように出社をしなければならないのは(出社を強要するのは)いったい何故なのか…。

幸い、私の職場では早々に在宅勤務の指示が出ました。もしもその指示が無ければ、自分の判断で在宅勤務に切り替えて良いものか、私も悩んだと思います。何故なら会社からは欠勤と扱われてしまう可能性があるからです。そして何より、真面目に出社している同僚から白い目で見られてしまうかもとも考えてしまいます。(この心境は、台風により交通機関がマヒしているにも関わらずいつもと同じように出社しようとする心境に似ています。)

いま、世の中で働いている人の多くは、勤務した時間に対する対価として給料を貰っている人が殆どかと思います。(完全なる成果報酬の給与体系の場合を除く)

そして、その殆どが一日の勤務時間は何時から何時までと決まっていると思います。つまりは始業時間に会社に在席していないと、働いていると会社から認められない決まりになっています。

しかしよく考えると、果たして毎日決まった時間に席につかなければいけない合理的な理由あるのだろうかという疑問が生じます。

この件を考えるヒントに、あるドラッカーさんの言葉があります。

「仕事と労働(働くこと)は根本的に違う」

名著『マネジメント』からの引用です。

決まった時間に出勤し、定められた時間働いて、その時間の対価として給料を貰う。これは労働の側面から見た考え方といえます。

この考え方には、労働に費やした時間とその成果は比例するという大前提があります。しかしこれは働く人のほとんどが肉体労働に従事していた時代の考え方です。

この情勢においてもまだ社員に決まった時間に出社をさせる会社の経営者は、未だこの古い価値観に捉われているように思います。

そして、その働きぶりを自分の目で確かめないと本当に働いているか確かめられずに不安になるのでしょう。

しかし工場勤務ならさておき、今や成果が労働時間に比例して増える職種はそう多くありません。ドラッカーの言葉を借りれば、労働者の多くはその専門知識をもとに成果を上げる「知識労働者」だからです。

知識労働者にとっては何時間働くかなど関係がありません。働く場所ももはや関係ないでしょう。彼らは「労働」ではなく「仕事」をします。そして彼らが重視するのは何に貢献するかであり、成果であり、そして成果に対する責任です。

自分のなすべきことが「仕事」だと定義している者は、働く時間も場所も関係なく、この情勢で様々な制約がある中でもどう成果を上げるかを第一に考えて行動するでしょう。それが自宅であれどこであれ。

我々は今、新型コロナウイルスの感染拡大という現象によって、受け身的に「労働する者」から、能動的に成果を続ける「仕事をする者」へと転換を迫られているのだと思います。

それは労働する側も、労働をさせる側(経営者)も一緒です。

以下のニュースで、テレワークの実態を管理するツールのニーズが高まっていると報じられています。これは正に社員を「労働する者」として扱っている経営側の価値観の分かりやすい現れです。

これはもはや管理ならぬ「監視」です。そこまで社員を信じれないのかと思うと悲しくなります。

ある経営者の方が言っていました。サボる者はどこで働こうともサボる。それよりも、きちんと働いている者に対しては正当な評価をしてあげなければいけない、と。

先に述べたドラッカーさんの観点から考察すると、この経営者の方は社員には「仕事」をする事を求め、その期待に応えている社員を評価したい、という価値観を持っています。

この情勢でもいつも同じように出社させる、或いはテレワークの社員をツールを導入してまでも監視しようとする経営者とは正反対の価値観です。

この度の新型コロナウイルスの感染拡大は、経営トップのマネジメントの価値観を浮き彫りにしています。会社の対応や経営者の姿勢を見て、このまま働き続けるべき会社なのだろうかと考え直す社員が出てきても不思議ではありません。

このような転換期こそ、基本と原則に立ち返るべきだというのがドラッカーさんの考え方です。

それは、著書『マネジメント エッセンシャル版』の冒頭に、「日本の読者へ」と題した前書きに鮮明に書かれています。この内容は、今まさにこの状況だからこそ、ビジネスに関わる我々すべての人間が噛みしめなければならないメッセージだと受け止めています。

  "経験が私に教えたものは、第一に、マネジメントには基本とすべきもの、原則とすべきものがあるということだった。
  第二に、それらの基本と原則は、それぞれの企業、政府機関、NPOのおかれた国、文化、状況に応じて適用していかなければならないということだった。
  第三に、基本と原則に反するものは、例外なく破綻するという事実だった。基本と原則は、状況に応じて適用すべきものではあっても、断じて破棄してはならないものである。”



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