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工作舎の隠れ推し本#06 「うまい!」が見える 『ワンダーレシピ』

note連載企画「工作舎の隠れ推し本」の第6回は、美味しい魅力いっぱいのグルメスケッチ『ワンダーレシピ』です。記事の最後に、プレゼント企画の詳細が書いてあります。ぜひご応募ください。


『ワンダーレシピ』
添田 浩

食いしん坊のレシピ・スケッチ

 いきなり自分で編集した本を紹介するのは、少々気が引けないこともないけれど、『ワンダー・レシピ』について書いてみたい。そもそも稲垣足穂の『男性における道徳』を読んで以来、料理や食事について云々するのは避けてきた。なのに最近、料理に関係する仕事が増えている。そのきっかけがこの『ワンダー・レシピ』だったようにも思える。

 いつ終わるかわからないようなローンを組んで、なんとか集合住宅の一室を手に入れたとき、添田浩の名前を知った。その住宅パンフレットに、建物の設計者の一人として添田氏の写真入りのインタヴュー記事が掲載されていたのである。まもなく縁あって、その集合住宅メーカーのPR誌の編集を手伝うことになり、ナマの添田氏と面識を得た。建築やインテリアの話題を振っても、いつの間にか料理の話になってしまう困ったおじさんだった。結局、そのPR誌で添田レシピの連載が始まったという次第である。料理も何度かいただいた。当方は足穂の影響もあってグルメでもフーディでもないけれど、添田氏の料理はどれもこれも格別に美味しいと感じた。昔、あの熊谷喜八と組んで料理をつくっていたこともあるそうだから、不味いわけはない。

 建築家という本業があるのに、なぜにそれほど料理に入れ込んでいるのか、というのは愚問だろう。要するに「食いしん坊」なのである。そして添田氏にとっては、料理はもう一つの建築でもあるのだ。本書でもやはり写真よりも御本人の手になるレシピ・スケッチの方が、断然彼の料理の魅力を伝えている。完成した建築よりも、そのエスキースの方に、建築家の設計意図や想いが直裁に表現されているのと似ている。そもそも彼の料理写真は、「つくった料理は冷めないうちに食え」というのが信条の添田氏にとっては、速攻で撮影しなくてはならないものなのだ。一方、スケッチからは「食いしん坊」の想いがじわじわ、もりもり伝わってくる。まさにプロセスこそがリアリティなのである。レシピ自体は総じて高カロリーであり、食材も高額なものが少なくないし、普段からキッチンに立つことのない身としては、実際につくってみようとはなかなか思えないが、本書のスケッチを眺めているだけで、心地よい満腹感に満たされている自分がいる。
 
喜八さんにお会いしたときには、添田料理について聞いてみた。「彼の料理は美味い。でも盛り付けがイマイチだね」とのこと。それって建築デザイナーとしては、いかがなものなのか。まあ「食いしん坊」にはありがちなことなのだろう。千代紙細工めいた料亭の凝った盛り付けは好きではないし、何より料理は作品でも自己表現でもないと思う。それに添田デザインの集合住宅の方は、デザインも住み心地も気に入っているので、彼の盛り付けについては、それでいいことにしておく。
 
肝心なことをことを書き忘れた。この本、レシピ・スケッチもさることながら、まずなによりも「食いしん坊」炸裂の文章が愛らしくて洒脱なのである。エッセイ集として読んでも、腹鼓を打つこと請け合いである。(米澤)

パパイヤのフラッペ

著者紹介

添田 浩(そえだ・ひろし)
建築家、デザイナー。1942年東京生まれ。1967年東京芸術大学美術学部建築学科卒業。同修士取得。1969年『都市住宅』に「自邸」を発表、建築ジャーナリズムの注目を集める。『Concerned Theator Japan』に日本の演劇空間、祭りの空間の調査報告及び小論を寄稿。また、パリ、ウイーンなどで歴史的建築のレストレーションに参加する等、住宅設計を中心に、アーバンデザインから建築、ランドスケープデザインまで幅広いデザイン活動を展開する。料理人との交流も多彩で、とくに70年代後半の熊谷喜八氏との出逢いを通じ、独特の「料理スケッチ」のスタイルを確立。そのスケッチは、KIHACHIのメニューやパッケージなどにも採用された。三井不動産レジデンシャル会員誌『こんにちは』での作品発表以降、料理・スケッチ・エッセイが一体となったその「ワンダーレシピ」のファンは、さらに広がりつつある。

書籍情報

『ワンダーレシピ』
添田 浩
●本体2200円+税 ●A5判 144頁
2010.11刊行

本書目次

「ワンダーレシピ」へのご招待……熊谷喜八
MENU

はじめのレシピ
[グレープフルーツのオードブル]

Spring Recipes 春のレシピ
[アボカ豆腐]
[クロック・ムッシュ]
[ソース・ムタールとぶっかけサラダ]
[サラダ・ニソワーズ]
[スモークサーモンのアボカド巻き]
[中華鶏サラダ]
[ローストビーフ・サンドイッチ]
[コキーユ・サンジャック・ア・ラ・パリジェンヌ]
[春キャベツ巻き]
[手打ち麺の野菜焼きそば]
[ポーク・シャルキュチエ]
[筍のサイコロ・ステーキ]
[めばるのポアレ]

Summer Recipes 夏のレシピ
[パパイアのフラッペ]
[カルパッチョ・アル・フォルノ]
[ポッロ・トナート]
[パエリア]
[柿の葉寿司]
[プッタネスカ]
[卵ドライカレー]
[あつあつとろ〜りのパスタ]
[ペキンダック・サーニー]
[づんだ寿司]
[ブルーベリーのパンケーキ]

Autumn Recipes 秋のレシピ
[ハムとチーズと卵のガレット]
[アボカドと海老のコロッケ]
[三色漬丼]
[鯖のタルト]
[ポルチーニ茸のタリアテッレ]
[パスタ・ベイク]
[仔羊のロースト]
[三枚肉のとろとろ醤油煮]
[海老のフリット]
[スペアリブの腐乳焼]
[孫さんの炒り卵]

Winter Recipes 冬のレシピ
[甘鯛のかぶら蒸し]
[マックロー・バンブロン]
[リガトーニ漁師風]
[グジェール]
[鴨蕎麦がき]
[フルーツ味のパスタ]
[ピザラディエール]
[コッコバン]
[牡蠣の炊き込みご飯]
[すき焼き]
[タルト・タタン]

digestif あとがき




プレゼント応募方法

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次回の紹介書籍は異相に神あり異形に神あり『本朝巨木伝』です!


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