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“今”を映し出す芥川賞受賞作/宇佐見りん「推し、燃ゆ」

推しが炎上した。ファンを殴ったらしい。

「推し、燃ゆ」の著者・宇佐見りんさんは、デビュー作の「かか」で三島由紀夫賞を最年少で受賞し、本作では芥川賞を受賞しました。今、注目の作家さんです。

本作の主人公は、あかりという女子高生です。男女混合アイドルグループ「まざま座」のメンバー・上野真幸を推しています。あかりは、推しを“解釈”することに心血を注ぐことを生きがいにしており、「推しは私の背骨」とまで語ります。しかし、高校生活もアルバイトも、病気のせいで上手くいっていません。そんなある日、推しの上野真幸がファンを殴り、炎上。あかりの気持ちはどんどん揺らいでいきます。

ちなみに、「推し」とは、もともとアイドルグループの中の好きな(推している)メンバーを「推しメン」と言い、それが更に省略されたものです。今は、アイドルだけでなく、アニメのキャラクターや歌い手さん、スポーツ選手など、幅広いジャンルで使われます。また、グッズを買ったりライブに行ったりすることを、「推し活」と使うなど、すっかり定着しつつある言葉です。

この本はこんな人におすすめ

①読みやすい純文学作品に触れたい
②芥川賞の小説にやや苦手意識がある
③「偏愛するモノ」や「推し」がある

それでは、この作品の魅力を紹介していこうと思います、ぴょん!

*身近なテーマの純文学

この小説は、「推し」という身近なものがテーマになっています。最近は、好きなアイドルやアニメのキャラクターだけでなく、様々な人、物に「推し」という言葉を使うようになりました。現代社会を鋭く切り取っているテーマです。また、文章も読みやすく、ページ数も少ないので、純文学が苦手という方にもおすすめです。

アイドルを推している人はもちろんのこと、「偏愛しているもの」「熱中しているもの」がある人は、是非あかりを自分に置き換えて楽しんでみて下さい。

*最初の一文の衝撃

冒頭で引用した、
「推しが炎上した。ファンを殴ったらしい。」
という文は、物語の一等最初の言葉です。

帯にキャッチコピーとして書いてあった文なのですが、とても衝撃を受けました。個人的に、「メロスは激怒した。(走れメロスより)」並みのインパクトでした。これを皮切りに、物語は淡々と進んでいきます。ままならない日常への苛立ち、その中で出会った救いと、それが無常にも断ち切られる瞬間の絶望。それらが、鮮烈に、生々しく綴られています。そんな苦い青春小説です。

こうさぎも推している某男性アイドルグループがあるのですが、あかりほど心血を注いでいるわけではないのに、あかりに共感できるところが多々ありました。「推し」がいる人は、特に興味を掻き立てられると思います。


息苦しい日常を送る女子高生が見つけた、「推し」という救いと、その残酷な不安定さを描いた本作。是非、読んでみてください、ぴょん!


(2021年4月13日にはてなブログで公開した記事を、一部加筆修正しました。)

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