見出し画像

童貞には恋愛ではなく人間関係を③

●この回で一応終わりです。

あらすじ:童貞が中国人留学生の家に誘われました。


異文化理解と女子部屋童貞と火鍋と

盆踊りから一週間経った頃、僕は大学の図書館である本を探していた。カウンター横の階段を上って2階に上り、壁沿いに並んだ本の背表紙を目でなぞっていく。『留学生のための日本入門』『留学生とホームシック』...

『 中国人留学生の生活実態 』

さっと手に取って巻末情報と目次にさらっと目を通す。これなら僕の求める情報も載ってそうだろうか。本をぼうっと眺めている間も、ずっとあの日の言葉が僕の頭の中で渦巻いていた。

=====

「今度私の家でご飯食べない?」
「(うぇ?)」
「火鍋とかいいと思うんだけど」
「火鍋って初めて聞いたんだけど、どんな感じなの?」
「あぁ、火鍋ってこういう感じで~」(サムネの鍋が火鍋ですね)

Tさんが見せてくれる携帯の画面を見つつも、しかし頭の中では困惑と期待で頭がぐしゃぐしゃになっていた。

え、イエ...家!?いや、家っていうっか留学生だから必然一人暮らしの部屋だよね?え?サシでまともに話したの今日が初めてだよね?君年頃の女の子だよね?これが美人局ってやつなのかたまげたなぁ...。え?でも信じてみたいっていうか好奇心に従いたいんだけど、僕はどうすればいいんだ?いやそもそも(以下略)

...だから調べたかったのだ。本人に聞くわけにもいかないし。


=====

『中国では友達感覚で異性を家に呼ぶことがある』と知ったのはこの時が初めてだった。(これが異文化理解ってやつですよ。いやぁ僕めっちゃ意識高いわこれが文系大学生ってやつですね。まぁ人類の半分を占める人らのことをろくに理解しようとできてないんですけどねハハッ!)

というわけで、「いや好きじゃねーし!ただの友達だし!」という、中学生ばりのテンションでTさんの家にいくことにしたのだ。彼女と仲良くなれただけ充分と思うのだが、当時の僕は何を考えていたんだろうか。下心満載である。経験が少ないって悲しいね、うん。



夕方、正門の前で待ち合わせをした時には、もう軽く秋になっていた気がする。

学校から彼女の家までは歩いて15分ほど。途中でスーパーに寄って食材を調達した。買い物中、隣に同世代の異性がいるというのは、その、やばい(語彙力)。相手が自分の日常に入ってきたような気がして、その状況と感情が自分にとっては稀少なことすぎた。never young beach『明るい未来』のMVに「彼女とスーパーで買い物している」シーンが出てくるのだが、その状況を少しだけ味わうことができたように感じた。すごかった。

...キモいね。

(↑破壊力高いので注意)


そして火鍋、やっと火鍋である。ちなみに女子部屋童貞はさらっと卒業しました。ハムスターを飼っているだけの普通の部屋でした。また一つ現実を知ることができて良かったな、兄弟。

中国語で書かれた袋に入ったスープを鍋に入れる。そこに雑に豚肉を入れた後、白菜やニラなどの野菜をのせる。10分ほど経つと、部屋の中に甜麵醬と山椒の合わさった香りがふんわりと広がった。自然とお腹が空いてくる。

胡坐が丁度いい小さなテーブルをはさんで、同じ鍋をつついた。この時の火鍋の味は今でも少しだけ覚えている。山椒がかなり効いたしびれる感じの辛さが豚肉によく合っていた。火鍋を食べながら色んな話を聞いた。彼女の研究していること、彼女がなぜその学問を選んだのか、なぜ日本に来たのか、それからバイト先のあれこれとか将来の展望とか。これを書きながらさらに思い出した。死にたい。

一つだけ後悔があるとするなら、僕はその場で「自分のことを話せなかった」ことだろうか。Tさんの話ばかり聞いていたせいで自分の話を話せなかった、というより僕には自分の話をする経験というか技能がそもそも無かったのである。自分語りもできない男とか、よくて「理解のある彼君」にしかなれないぞクソが(今はnoteという場でも少しできるようになりました😎)


そんなこんなで、ドキッ!中国人美女と火鍋パーティーはこうして終わったわけです。もちろん食後は特に何もなく家に帰りました、はい。


少しだけ変わった日常

彼女がゼミに来るのは、単位の都合上前期だけだったらしい。秋から始まった後期のゼミにTさんの姿はなかった。結構残念ではあるものの、前記事で書いたような悩みは杞憂に終わったわけだ。少しホッとした。

その代わり、ゼミの外でTさんと会う時間ができた。今まで一人だったり部室で食べていた昼飯を、週に一回Tさんと学食で食べるようになったのだ。なぜ週一なのかといえば、大体水曜日にTさんが誘ってくれたからであり、そして僕の方からはあんまり誘わなかったからである(←なんでやねーん!!!)。

一人では人権がなくて行けなかった学食に女性と二人で、しかも留学生(可愛い)である。恐らく当時の僕は相当挙動不審だったに違いない。特にメニューを見て悩んでいるときに、リュックの端っこをつまんで軽く引っ張りながら「これどう思う?」って聞いてきたときはどうにかなりそうだった。そこに誰もいなければ「あざとすぎるやろーーうわああああああ」と叫んでいたはずだ。社会的に死なないでほんとよかった。


そんなこともあり、大学に行くときにワクワクしている日が増えたのは確かだ。彼女と一緒にいた時間が、僕にとって幸せだったことは否定できない。そんなこんなで甘々な秋はあっという間に過ぎていった。


変われてなどいなかった

「Tさんって春休みはどうするの?」
「中国の実家に帰るよ。つばめはどうするの?」
「部活の合宿があるから、それで結構山にいる感じかなぁ」
「あれ、スキーだっけ?」
「そう、楽しみなんだよね」

「中国に帰るって言ってたけど、家って上海だっけ」
「そうそう。一週間ぐらい行った後日本に帰ってきて、それからもう一回新学期まで向こうにいる予定だよ」
「日本にいったん帰ってくるの?」
「なんか大学の書類申請で一回帰る必要ができちゃって」
「そりゃ面倒だね」


......最後の会話。詳しく覚えてはいないがこんな感じの会話をしていたか。

春休み中連絡が取れなくなって、新学期になっても特に動きがなかった。どこか僕に気持ち悪いところがあったかなとか、いや携帯変えたのかな、なんて考えたのだが、理由はどうであれTさんとSNS上でさえも話せなくなってしまった。その時の感情は今も宙ぶらりんのままで、大学の近くを通るときふとTさんとばったり会わないかなぁ、なんてどうしようもないことを考えては、そんな自分がおかしくて笑ってしまう。

もう終わった。そういう縁だったのだ。おしまい。




さて最後に生々しい反省を少しだけ。

なんやかんやで、Tさんに対して「気持ち悪いって思われるかな」と思いつつも素直に行動できてたのはよかった、というか中学校から成長できていただろうか。そこ、遅いなんて言わない。特にTさんという(少なくとも僕にとっては)魅力ある異性に対して、クッソ動揺して挙動不審ってことはなかったかな...。多分...。恐らく...。もしかしたら...。

ただ「二人で話せる仲」になってからの関わり方が本当に分からなかったなぁ。分からなかっただけじゃなくて、そういう状況の中で自分がどうしたいのか、どう行動するのかっていうところが曖昧なままだった。「もっと仲良くなりたい」という思いに対して、「大学で周りからどう見られるだろう」なんて現実問題どうでもいいことで自分の本音を殺し続けたところは、まぁ僕らしいといえば僕らしいが、もっと大人になってほしいな。高校から大体メンタルブレイクしていたから、まぁなんかあの時の僕の選択も納得できちゃうんだけどね。


おわりに

書きながらまた一つ仲良くなったきっかけを思い出して(文章の流れ上書けなかった)、あの時の僕をほめたくなりつつ悶絶した。

LINEに黒歴史が多すぎるんじゃ。


つばめ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?