2023年観た圧倒された映画5作品。ほか観たもの一覧
2023年もそこそこ映画を楽しむことができた。
劇場公開の新作、旧作の再上映、配信もの。それぞれ合わせて42作品を観た。
とはいえこの2年ほど劇場で映画を観る機会が減っている。タイミングが悪かったり仕事で都合がつかなかったり、なにより生活環境の変化もありレイトショーに行きづらくなったり。
古い人間ではないけれど映画はやっぱり劇場で観たい。
スクリーンの大きさ、音響、ほかに人がいる状況下での観賞。パソコン画面で視聴するのとは訳が違う(あとは液晶モニターではなくスクリーンなので光で目が痛くならない)。
観た映画、それぞれたくさん語りたいことはある。
そのなかから泣く泣く選んだ5作品をここに記しておきたい。
『バビロン』
1920年代〜30年代、無声映画(サイレント)から発声映画(トーキー)への移行期のハリウッドを描いた作品。豪華絢爛、乱痴気騒ぎ、世界の絶頂ハリウッドな雰囲気からはじまったかと思いきや、世の流れに翻弄され没落していく業界人たち。はじまりは終わりへ流れるし、形あるものはやがて壊れていく。物事が永遠不滅に絶対的に安定しているなんてことはない。それをまざまざと見せつけれられる映画だった。ブラッド・ピッドとマーゴット・ロビーの哀愁よ。あともっとディエゴ・カルバは評価されてもいいはず。
チャゼル作品らしい終わりにいくにつれて何かしこりが残っていくストーリー。けれど、最後の最後に向けて、映画の歴史やこれまで関わった人たちに対する愛とリスペクトが溢れた描写が満載。終わりよければすべて良し。
『TAR/ター』
ひたすらケイト・ブランシェットのすごみを見せつけられる(誉めている)映画。いやもうほんとこの人は役者なんだなって。あんまり世間では話題になっていない印象だけど、圧倒的なパワー、演技、ストーリーにやられた。文化資本に恵まれたバリバリの上流階級出身っぽい振る舞いや佇まいの主人公:ターだけど、実は成り上がって今の地位を手に入れたという。彼女の人格はともかく、そこまでライジングするきっかけをつくったのが子どものときに夢中になったクラシック音楽のテレビ番組だったっていうのが、なんだか好きだな。
『ザ・ホエール』
自分のなかではラース・フォン・トリアーと同じく鬱映画を撮る印象の強いダーレン・アロノフスキー。観る前は本作もどうなることかとハラハラ。ハムナプトラシリーズで活躍するパパ役とは真逆、恋人を亡くしたストレスで自力で歩けないほどぶくぶくの巨漢になってしまった役を演じるブレンダン・フレイザー。アロノフスキーの趣味なのか、徹底的に心身痛めつけてくる描写、尊厳を挫いていく感じが観てて辛い。でも、この監督にしては珍しく? 救いのあるラストだったと思う。赦しとか和解とか、それこそ人生的な意味での終わりよければすべて良し的な。
最後のシーン、海鳥の鳴き声と波の音。あの終わらせ方は今年観た映画のなかでも一番好き。
『aftersun/アフターサン』
雰囲気からいえば今年ダントツで一番好きな作品だ。言葉で語られることも少ない、ストーリーへの説明もほとんどない。昨今の説明過多な物語が多いなかで、シーンで見せていく映画だなって感じた。
終始パパから不穏な空気を感じるし、パパが一人でいる描写はなんだかジャパニーズホラーを感じさせるし。一夏の思い出を回想する映画だけど、なんだか見方を変えればホラー映画でもあるような。ああ、もしかしてあのときのこの表情は、あのときのこの仕草は、、、と思い返してみるとゾッとする場面もある。
無邪気だった13歳の思い出と、29歳の大人になった自分とが交差する。そのときに主人公は何を見たんだろう。最後のパパの表情と後ろ姿が苦しいな。
あと、ブラーの使い方が泣ける。
『バービー』
公開を今か今かと一番待っていた作品だ。『レディ・バード』を観て以来ファンだ。『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』なんて人生のなかのベスト10に入っている。そんなグレタ・ガーウィグの最新作。グレタ・ガーウィグがポップな作品撮るって、しかもバリバリにアメリカン資本主義を感じさせるテーマのものを撮るってどうなるんだろうワクワクが止まらない。結果、すっごい良かった。劇中のセリフや会話、バービーやケンをめぐる足かせやバイアス、そこかしこに捧げられたオマージュ。パズルのピースを組み立てるように、それを確かめたくて2回劇場へ足を運んだ。
バービーがバービーであることの苦悩、ケンがケンであることの苦悩。その葛藤が人間界の自分たちにも重なるのだが、僕のなかではアランの立ち位置が非常に重要なのではないかと思っている。どちらの世界にも属さない、属すことのできない、常に大きな声にかき消されてしまうマイノリティな存在(マイノリティという大きな定義からも常にはみ出していくのかもしれない)。
ライアン・ゴズリングが熱唱している劇中歌「I'm Just Ken」の重厚なギターを弾いているのはスラッシュだと知って後日爆笑した。
2023年観た映画一覧
劇場で観た映画 (および個別に言及した記事)
『バビロン』
監督:デイミアン・チャゼル
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
監督:ダニエル・クワン|ダニエル・シャイナート
『丘の上の本屋さん』
監督:クラウディオ・ロッシ・マッシミ
『ザ・ホエール』
監督:ダーレン・アロノフスキー
『TAR/ター』
監督:トッド・フィールド
『ぼくたちの哲学教室』
監督:ナーサ・ニ・キアナン|デクラン・マッグラ
▼この映画について過去に書きました。
『aftersun/アフターサン』
監督:シャーロット・ウェルズ
▼こちらの記事で軽く触れています。
『ヴィデオドローム』
監督:デヴィッド・クローネンバーグ
『バービー』
監督:グレタ・ガーウィグ
『ジョン・ウィック:コンセクエンス』
監督:チャド・スタエルスキ
『福田村事件』
監督:森達也
▼いろいろ衝撃的すぎて感想を書いてます。
『つつんで、ひらいて』
監督:広瀬奈々子
▼本や雑誌に関わる身として、また好きな身として示唆深いお話でした。
『PERFECT DAYS』
監督:ヴィム・ヴェンダース
(計13作品)
サブスク配信で観た映画 (および個別に言及した記事)
『ミッドサマー』
監督:アリ・アスター
『キングコング:髑髏島の巨神』
監督:ジョーダン・ヴォート=ロバーツ
『死霊館』
監督:ジェームズ・ワン
『クリーピー 偽りの隣人』
監督:黒沢清
『ボーダーライン』
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』
監督:ステファノ・ソリマ
『サスペリア』(1977年版)
監督:ダリオ・アルジェント
『ミュンヘン』
監督:スティーヴン・スピルバーグ
『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』
監督:スティーヴン・スピルバーグ
『ウトヤ島、7月22日』
監督: エリック・ ポッペ
『シン・ウルトラマン』
監督:樋口真嗣
『007/カジノ・ロワイヤル』
監督:マーティン・キャンベル
▼久しぶりに観た感想を
『007/慰めの報酬』
監督:マーク・フォースター
『007 スカイフォール』
監督:サム・メンデス
『007 スペクター』
監督:サム・メンデス
『X エックス』
監督:タイ・ウェスト
『セッション』
監督:デイミアン・チャゼル
『ファースト・マン』
監督:デイミアン・チャゼル
『レッド・ドラゴン』
監督:ブレット・ラトナー
『NOPE/ノープ』
監督:ジョーダン・ピール
『ドクター・スリープ』
監督:マイク・フラナガン
『プロメテウス』
監督:リドリー・スコット
『ユージュアル・サスペクツ』
監督:ブライアン・シンガー
『マトリックス レザレクションズ』
監督:ラナ・ウォシャウスキー
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』
監督:ジョージ・ミラー
『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』
監督:マイケル・ドハティ
『ゴジラvsコング』
監督:アダム・ウィンガード
『来る』
監督:中島哲也
『残穢 -住んではいけない部屋-』
監督:中村義洋
(計29作品)
来年はもっと映画観たい。
なんてことを何年も言っている気がする。
2024年は『オッペンハイマー』の公開が決まっている。“バーベンハイマー”によって内容以前に否定的な批判が集まった作品。くだんのミーム画像などは非難の声をあげて当然だと思う。だが、映画そのものは中身を観てから判断したい。公開が待ち遠しい限り。
来年も映画の世界に帰っていきたい。飛び込んでいきたい。
※キャッチ写真は馴染みのセレクトショップに貼ってあった『ラストデイズ』のステッカーです。静かだけれど好きな映画の一つ。こういうものが不意に視界に入るとお店の人に話しかけたくなっちゃうものですよね。
執筆活動の継続のためサポートのご協力をお願いいたします。いただいたサポートは日々の研究、クオリティの高い記事を執筆するための自己投資や環境づくりに大切に使わせていただきます。