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201X年7月 国境の街

201X年7月、僕は国境の街にいた。
厳重に警戒態勢の敷かれた国境。ものすごい熱量を持った人たちが我先にと先を争う。国境とは、ヘゲモニーによる支配の価値観を守るための壁のように僕には見えた。たぶん間違いないだろう。そして壁は高ければ高いほど超える欲望は膨らんでいく。そう、彼らは違う価値観を恐れている。

果たして、壁の向こうの街は「偽物の王国」であった。うまく言えないが天井が低く、妙に管理された街ではあったが、その中で生きている人たちは逞しかった。どうやって抜け道を作り、どうやって生きていくかの術を持っている。乳飲み子が乳を飲みながら母親と店子をして、子供たちは林檎の付属ヘッドホンの偽物を箱詰めしている。平日はほとんどが学校に通わされる極東の島国とは様相がまるで違う。街ではすでに現金を使っている人はいない。偽物が出回るし売り上げがなくなるからあっという間に電子化は進んだ。何もかもが別の論理で動いている。

一方、壁の手前は、所謂「金融の街」だ。スピードは速いしギスギスしている。欧米の匂いとアジアの混沌が混ざっている。天井は高くなるが、あまりいい感じがしない。白人の論理に乗せられる感じに辟易とする。

その、あまりに違う景色が、たった数キロ圏内で存在することに眩暈を覚えて、イミグレーション後に振り返って国境の空を見上げたら、鳥が国境を越えて軽々と飛んでいた。


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