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201X年7月 国境の街2

国境の街。壁の向こうでは、友人の紹介で水先案内人のJ(ジェイ)と待ち合わせ。待ち合わせ場所は国境を越えて20分くらい歩いた、乗り換えの電車のある駅の一階だ。面識がなく、言葉がろくに通じない二人が会うのはなかなか困難だ。そのうえ、このエリアは電波がなかなか切り替わってくれず難儀した。
ここでもないあそこでもないと探し回った挙句、50分遅れで僕たちはようやく出会うことが出来、お互い喜びあって握手を交わした。そして僕たちはまず食事をしに行った。J曰く「今日ハ私のおゴリだ。遠慮なク食べテクれ。」
何が食べたいと聞くので「現地のものが食べたい」と返答した。「OK,ソれナら簡単ネ」。
Jはエンジニアであり行商である。アジアのあちこちに出没しては新しいものを探している。今日はたまたま国境の街にいるが、明日は内陸に一週間くらい行くらしい。
食事をしながら僕たちは大事なな話をした。
「OK?僕たチは、ビジネスする以前ニ友人ダ。こレヲ忘レてはイけなイ。こコでハコれが最モ重要ナこトダ。」

僕たちは、妙に整理された近年作られたばかりの街を回り、試作品の部品を買い、商品の目利きをした。ここでは極東の島国ではお目にかかれないものが沢山あり、考えることが沢山だ。商品そのもののクオリティは全く保証できないので安易な転売はお勧め出来ず、それを自分のビジネスにどう使うかが試されている。大量の物の中から情報を探すのは、ゴミの山から宝物を探す行為によく似ている。そうか、Jは毎日ハンターみたいに宝探しをしているのか。それは面白そうだ。

歩いているうちに、あるビルの7Fがワンフロアまるまる空いているのを見つけたのだが、なぜだかまわりでそのことを気にしている人はいない。なんとなく気になって何の気なしに踏み込もうとしたその瞬間 、Jの顔色が変わった。
「ソこへ行っテハいケナい。そコハ特別な場所ダ。」

それ以外、特にJは変わった様子もなく、僕たちはそうして一日中歩いて宝探しをし続けた。結果、いくつかの買い物と道具を買って、今日の収穫について話をし、僕たちが楽しくまわっている様子を写真に撮って友人に送って、Jが最後に言った。
「借りハいつカ返しテくれ。そレがこの世界ノるールだ。」
「OK!ワかってル。」

これが国境の街での、或る一日だ。

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