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100日後に死ぬ父。18日目。

 父は音楽が好きだ。特にローリングストーンズやクイーン、ブルースブラザースが好きで、押し入れにはCDが沢山ある。僕が子供の頃は、ブルーズブラザースの映画を何度も見せられた。だから同年代の中では一番あの映画を見ているという自信がある。CDも何度も聞かされ、ドライブの曲はいつもブルーズブラザーズだったことを覚えている。
 僕が小学生の頃までは、父の聞いている洋楽のすべてに、〝大人〟というイメージを強く感じさせられた。だから父が聞いているというだけで、僕は子供が手を出してはいけない領域だと思っていた。子供の僕がいくら聞いたところで、ただ背伸びをしているだけのようで、なんだか聞いている自分が場違いに思えたのだ。大人しかビールの美味さが分からないように、大人しか洋楽の本当の良さが分からないと思っていた。
 今思えば、洋楽を聞いている父をどこかカッコイイと思っていたのかもしれない。曲を聴きながら誰のギターが上手いとか、アーティストの有名な裏話を語るので、音楽について熱く語る父に対して、僕は憧れている部分もあったのだと思う。

 僕が大人になった現在では、父の部屋からは洋楽は聞こえず、アイドルの曲ばかりが聞こえてくる。あれだけ洋楽を聞いていた父が、今ではすっかり若いアイドルにハマってしまった。特にハマっているのは3組くらいあるのだけれど、3組ともグループ名が独特で、未だに僕は名前を覚えられない。最近のアイドルはグループ名にインパクトがあるのに、一度見ただけでは覚えられないのが不思議である。
 子供の頃に感じていた〝父〟の印象と、大人になって感じる〝父〟の印象はだいぶ違う。最近の父はとても〝大人〟とは思えず、むしろ〝子供〟っぽいところばかり見えてしまう。父が変わったのか、それとも僕が変わったのかは分からないけれど、とにかく子供の頃とは変わってしまった。それが良い事なのか悪い事なのかも、僕にはわからない。

 今日も父の部屋からはアイドルの曲が聞こえた。母とはまだ険悪なムードで、外出を自粛しているので、部屋でアイドルに癒されているのかもしれない。

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