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100日後に死ぬ父。80日目。

 明日からの二日間。僕と母と姉の三人で、東京ディズニーランドに遊びに行くことになっている。父の入院前に遊びに行くのは申し訳なかったけれど、以前から計画をしてホテルも予約済みだったので強行することにした。
 元々父も遊びに行こうと誘っていたけれど、歳をとるにつれて父は旅行が面倒になってしまい、「オレは家でゆっくりしたいから、三人で楽しんできて」と言って、決して一緒に行こうとしてくれなかった。父の糖尿病が発覚した時も「入院で迷惑を掛けるから楽しんできて」と言って、僕らに気を使っているようであった。
 今後歳をとりづづけたら、家族旅行なんてもっと行きずらくなるのだから、行ける時に行っておいたほうが僕はいいと思うのだ。インスリン注射が入ったポーチを抱えた父と旅行しているところを想像すると、やはり今回の旅行はみんなで行くべきだと思った。だけど父の遠出を面倒に思う気持ちはとても強く、結局父は家で大人しく留守番をすることとなった。
 明日からの二日間、父が飲みに出掛けようが、それを止める人は家に誰もいない。もしかすると父はそれを狙っている可能性もあるのだけれど、母も僕もその事に関しては何も言わなかった。もうあと二件の仕事が終われば、父が病院に行くことは決まっているので、これ以上父にぐちぐちと言いたくはなかったのである。
 けれど母はやはり父を家に一人残していくのが心配のようで、父がちゃんと留守番できるように沢山メモを書いていた。冷蔵庫には父へのメモで埋めつくされて、それを見ていると僕も父が1人で生活できるのかが不安になりはじめてしまった。
 まあ、それでも僕らは明日出発するのだけれども……。

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