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三重県鈴鹿市の300年蔵 東海醸造

先日、麹作りの仲間たちと三重県たまり醤油蔵ツアーに行ってきました。
一軒目は鈴鹿市西玉垣町にある「東海醸造」さん。

伊勢街道沿いにある東海醸造は、江戸時代からこの場所で豆味噌とたまり醤油を作り続け、創業はなんと300年!新しめの住宅に囲まれているのがちょっと意外な感じがする。

にこやかに迎えてくださった蔵の方々との対面を終え、醸造を取り仕切る本地(もとじ)さんに蔵の内部を案内していただく。蔵に入るとまず、味噌と醤油の香りがガツン!とやってきて、そして目に飛び込んでくるたくさんの巨大な木桶…。すっっっごい迫力だ。

所狭しと立ち並ぶ巨大な木桶、中には大正時代から使われているものもあるそう。表面は毛羽立っていて、ピカピカ新品の桶は見当たらない。白っぽかったり黒ずんでいたり、湿り気があったり、森や神社で見かける樹齢数百年の老木のような、圧倒的な存在感に驚かされる。

この木桶の中にびっしりと豆味噌を仕込み、3〜5年という歳月をかけてゆっくり熟成させるのだ。

豆味噌とは大豆と塩だけを原料とするお味噌のことで、この豆味噌から滴る汁をたまり醤油と呼ぶ。ほぼ東海3県でしか作られていない、非常に地域性がある食品だ。

この豆味噌とたまり醤油を昔ながらの製法で醸造しているのが東海醸造の特徴であり、素晴らしいところだと感じた。

特にたまり醤油においては、江戸時代から続く「底引き」にこだわり続けている。今では豆味噌とたまり醤油は別々で仕込むことが多く、木桶の底から自然に滴る醤油を製造販売している蔵はほとんどない。採取できる量も限られるため大変に希少だ。
(東海醸造のたまり醤油は、豆味噌が仕込まれる木桶の底に溜まった液体を瓶詰めしているため、商品名を「底引きたまり」としている)

底引きたまりは濾過や加熱をせず、製品中の微生物が生きたまま出荷している。加熱も濾過もしない醤油のことを「生(き)びき醤油」というが、微生物が残っていると出荷後も発酵が進み醤油が変質してしまうため、通常は一般に流通されることはない。

底引きたまりを開封してしばらく常温に置いておくと表面に白い粒のようなものが浮いてくることがあるが、これは食べても問題ない微生物のコロニーで、まさに自然そのままの醤油である証拠だ。(ちなみに醤油の加熱(火入れ)も素晴らしい醸造技術なので、いつかお話ししたい)

採れたてを試飲させていただいた。トロリとソースのような食感。旨味が暴発していてとにかく濃厚
大正6年に作られた木桶。おびたたしい数の微生物が棲みつき、味噌や醤油を味わい深く発酵熟成させる

最後に、本地さんの話の中で最も印象に残ったことをお伝えしたい。

三重県内で豆味噌やたまり醤油が生産される量は、全体のわずか2%なのだそう。三重県民の豆味噌・たまり醤油離れに危機感を抱かれている。

みなさんは、東海三県(愛知・岐阜・三重)が豆味噌・たまり醤油文化圏であることをご存知だろうか?私はワークショップに来てくれた方にどんな味噌と醤油を使っているか質問するようにしているが、ほとんどの方が知らないとおっしゃる。かく言う私もほんの2年前まで知らなかった。

今の日本は何処にいても世界中の食材が手に入るし、人も流れる時代だ。個々の好みが尊ばれる世の中において、地域の味だけにしがみつくのはナンセンスかもしれない。

でも、、その地域の伝統食を深く知ることは、土地の歴史や風土を知ることに繋がり、そのとたん、街に今までとは違う奥行きと色彩が生まれる。そして、もっと知りたいと好奇心がかきたてられる。自慢もしたくなる。地域の発酵食を知る楽しさはそんなところにもあると思う。

東海醸造は、私の三重県愛をめちゃくちゃ駆り立てる、そんな醸造蔵だ。

すっかり我が家の定番となった底引きたまり。
マグロやカツオなど赤身の刺身につけたり、カレーや麻婆豆腐の隠し味に使ったり、お肉にも抜群に合う。 色と旨味が濃いので、白身のお刺身や煮物などにたまり醤油をそのまま使うのはお勧めしない。料理の味付けがちょっと物足りないなあ、と言う時に重宝する。

蔵で直売もされているので、ぜひ行ってみてほしい。

東海醸造
三重県鈴鹿市西玉垣町1454
月~金曜日 8:30-17:00
土日祝日定休

Webサイト
http://tokaijozo.com/

Instagram
https://www.instagram.com/toukaijouzou/?hl=ja

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