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「ようこそ、妖崎あやかし法律事務所へ」第7話

幕間一


 新たな遺体が見つかったと連絡があったのは、ちょうど日付が変わった頃だった。

「これで六人目……いや七人目か」

 深夜一時。現場に到着した帆理は、車から降りて独りごちる。C県との県境にほど近い、I県の雑木林の中だった。

 既に現場には大勢の刑事や鑑識官――警察関係者で埋め尽くされていた。時間が時間で、野次馬がいないのが救いだ。

 先に到着していた後輩刑事の案内で、奥に進んでいく。やがて一枚のブルーシートが掛けられた一角が見えてきた。

「見ても大丈夫ですか?」

 尋ねた帆理に、鑑識は「大丈夫ですよ」と返す。お礼を一つ言って、帆理はブルーシートを捲った。

 そこに横たわっていたのは、ぎょろりと目を剥いた、スーツの男性だった。

 骨格はがっしりとしているが、元来あったであろう肉体のたくましさは一切感じられない。手足は痩せ細り、頬がこけている。端的に言えば、骨が浮き出ている状態だった。

「やはりこの遺体も血が抜かれています」

 手を合わせ、黙祷する。そんな帆理に、鑑識が現状を報告する。
 遺体を見ると、首元には獣が噛みついたような跡があった。

 そのまま数秒。じっと遺体を見つめるが、動き出す気配はない。当然、目が開かれる気配もない。

 帆理はブルーシートを戻し、立ち上がった。そのまま踵を返す。現場はまだ鑑識のものだ。迂闊に帆理が現場を踏み荒らすわけにはいかない。

「奴はどうしてる?」
「特にあやしい動きはありません」

 後をついてくる後輩刑事に尋ねると、端的な応えが返ってくる。そうか、と呟き天を仰ぐ。空には薄ら、本当に薄らとだけ左端を残した、細い月が浮かんでいた。

「現代に蘇った吸血鬼、か」

 ぽつりと呟く。

 脳裏に、見知った赤い双眸の男が思い浮かんだ。

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