【物語の「構造」とは何か】物語を分析した結果見えてきたルールとは(2012年4月号特集)
物語には文法があった
ソビエト連邦(現ロシア)の民俗学者、ウラジミール・プロップは、一九二八年に『昔話の形態学』という構造主義の先駆的な著作を出版します。
プロップは、この本の中でロシアの魔法物語を分析し、物語の文法とも言うべき31の機能を発見します。
プロップは「機能」と表現していますが、これは「人物の行動」と考えてください。
では、31の機能を挙げてみますが、ここではウラジミール・プロップ『昔話の形態学』とジャンニ・ロダーリ『ファンタジーの文法』を参考にしつつ、一部は分かりやすい言いまわしに変えて紹介します。
物語の31の機能
留守
家族の成員の一人が家を留守にする。たとえば、両親が出掛け、子どもが留守番をするなど。留守の最たるは死。禁止
主人公に禁を課す。たとえば、見てはだめ、覗いてはいけないなど。違反
禁が破られる。2と3は対。このとき、主人公に対する敵対者(加害者)が現れ、不幸、災いをもたらす。捜索
敵対者は探り出そうとする。たとえば、主人公の居場所や大事なもののありかを探り出そうとする、知ろうとする。密告
主人公に関する情報が敵対者に伝わる。たとえば、居場所やありかがバレる。4と5も対。探索された結果、漏洩する。謀略
敵対者は、主人公やその持ち物などを手に入れようとして、主人公を騙そうとする。たとえば、立派な若者に化ける、母親の声を真似る(姿を変える、ふりをする)など。黙認
主人公は欺かれ、そのことにより心ならずも敵対者を助ける。敵対者による主人公を騙そうとする勧めは常に主人公に受け入れられ、実行される。加害または欠如
敵対者は主人公に害を加えたり、損傷を与えたりする。結果、何かが不足する。ここから物語が始まるケースも多い。派遣(調停)
被害なり欠如なりが主人公に知らされ、誰かが主人公に依頼(命令)して、主人公を派遣したり出発を許したりする。娘が略奪されたと知って、娘を探しに行く場合は「探索者型の主人公」と言い、略奪された娘が主人公の場合は「被害者型の主人公」と言う。同意(決意)
主人公は敵対者に対抗する行動に出ることに同意するか、対抗する行動に出ることを決意する。9と10は対。9で依頼、命令された主人公が、10で同意、決意する。主人公の出発
主人公が家をあとにする。試される主人公
主人公が授与者によって試され、訊ねられ、攻撃されたりする。そのことによって主人公が呪具や助手を手に入れる下準備となる。授与者は、主人公の協力者と見てもよい。主人公の反応
主人公が、授与者となるはずの者の働きかけに反応する。試され、訊ねられ、攻撃されたりしたことに対し、リアクションを起こす。魔法の手段の提供、獲得
呪具(あるいは助手)が主人公の手に入る。呪具はアイテム、助手は相棒、仲間と考えてよい。主人公の移動
主人公は探し求める対象のある場所へ連れていかれる、送り届けられる、案内される。非常に遠い異国まで空を飛んだり道案内してもらったりして移動する。主人公の敵対者との闘争
主人公と敵対者が直接闘う。化け物や敵軍と戦う、あるいは、ユーモアを含む昔話では「競争する」。目印がつけられる
主人公が傷を負ったり、傷をハンカチで縛るなど目印がつけられる。敵対者に対する勝利
敵対者に勝つ(敵対者が負ける)。発端の不幸または欠如の解消
発端の不幸、災い、欠如が解消され、主人公の物語上の目的が達成される。主人公の帰還
主人公が帰路につく。ここで話を終えることもできる。追跡される主人公
追跡者(新たな敵)が現れ、主人公を追いかけ、殺そうとする。主人公の救出・脱出
主人公は追跡から救われる。追跡から逃れて終わりというパターンもある。密かに家に戻る
たとえば、追跡されているので、ひっそり身を隠すように帰ってくる、など。偽の主人公の不当な要求
偽の主人公が不当な要求をする。たとえば、家の場合は兄が、他国の場合は将軍が手柄を横取りしようとする、など。主人公に難題が課される
主人公と偽の主人公とでは、どちらが正しいのかが試される難題の解決
主人公は難題を解決する。認知
主人公が発見、認知される。たとえば、17の目印が決め手となって、主人公であることが分かる。露見
偽の主人公あるいは敵対者の仮面がはがれる、正体が露見する。主人公の変身
主人公に新たな姿形が与えられる。23で身なりを隠していた場合は元に戻る。敵対者の処罰
偽の主人公が処罰される。主人公の結婚
主人公は結婚し、即位する。金銭、その他の褒美をもらう場合もある。
ほとんどの話がおさまる
プロップが分析したのは魔法物語(魔法が出てくる民話)ですから、現代の小説や映画、マンガはこれと同じストーリーとは限りません。
しかし、手近にある本やドラマで検証してみるとよく分かるとおり、だいたいのストーリーはこの31の機能のように展開をしています。
日本の民話も「欠如」「出発」「勝利」「帰還」という展開をよくしますし、12で試された主人公が、その結果、重要なアイテム(またはパートナー)を得る、あるいは、17でつけられた目印(特徴、属性)は、のちにそれが主人公であるあかしとなる、また、23で正体を隠していた主人公が、最後に正体を明かすといった展開は定番と言っていいですね。
模擬ストーリーを作る
この機能(行動)を使って、『消えた花婿』という話を作ってみました……
物語の構成を知ったらストーリーが作れる!
特集「ストーリーメイクの鉄則」
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※本記事は「公募ガイド2012年4月号」の記事を再掲載したものです。
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