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みんなの期待を裏切った「女の子が入会するよ」と前置きされていたわたしの姿


いつも通りの気持ちと服装で

帰宅部志願のわたしは、なりゆきで社会学研究会(社学研)に入会することになった。声をかけてきたのはYさんという三回生の男性だった。わたしが女だとわからないような服装をしていたのに最初から女だとわかっていたようなのが少し不思議だった。

部室のない小さなサークルで

サークルと言えば暗い部室があって、というイメージを持っていたのだけれど、社学研には部室がなかった。しばらくして友達が入部した文学部系の研究会に一度参加させてもらった時に、立派な部室があったので驚いた。歴史と伝統が違うらしい。

初めてわたしがサークルの人と会ったのは、大学に申請して借りた小さな教室だった。Yさんと待ち合わせして、教室につれて行ってもらった。

痛いほど伝わったガッカリな気持ち

Yさんが教室に入るのに続いてわたしが入った。上級生らしい男の人が5人いた。ひとりが「新入生はまだけーへんの(来ないの)?」と言った。わたしは「あー」と思った。でもYさんは気にもとめず、黒板の前に立った。わたしも呼ばれて並んだ。

「新入生のこうりんさんです」とYさんが言うと、静かになった。これがよくいう「シーン」というやつか。上級生は「女の子が入会する」とYさんから聞いて、笑顔の可愛い女の子がくると夢を膨らませていたのだった。

申し訳ないとわたしは心の中で思った。思わなくていいのに思った。

だから笑顔だけは忘れないように挨拶した。それで気まずさは去った。だけど今でもあの「シーン」はわたしの頭の中に残っている。こういう体験をこの先何度もすることになるのだけれど、この時が一番申し訳なかった。

「男らしくない」上級生の部屋で

新入生歓迎コンパというものがどのサークルでも開催されていた。社学研では意外なことにサークルのメンバーの部屋で歓迎の宴を開いてくれるという。本気でお金がないことが伝わってくる。

入学二週間目で、はやくも男子の家に行くとは思わなかった。大学生の下宿というのに興味があったので嬉しかった。裏門を出てしばらく坂道を歩くとZさんが住むアパートがあった。

部屋に入って驚いた。壁一面に少女漫画が並んでいたのだ。わたしが好きな作品もたくさんあった。専門書もあるけれど、漫画の棚を見つめていた。「少女漫画は哲学なんだよね」とZさんが言った。わたしにはよくわからなかったけれど、Zさんに好感を持った。

こうやって、ひとりひとりを知っていく中で、この研究会も悪くはないと思うようになった。

楽しい春合宿

ゴールデンウィークを利用して、社学研の合宿をすることになった。お金がないのはこのサークルの伝統らしく、近場での合宿だ。民宿に一泊したのだけれど、到着した時に「あら、女性がひとりと伺っていたのですが」と民宿の人が言った。するとYさんがわたしを紹介してくれた。

わざわざ別の部屋を用意してくれていたのだが、わたしはみんなと話し込んでいる間に眠くなって、雑魚寝した。だんだん「女性扱い」というものがなくなってきていて、わたしは気楽だった。

「一度、来てみるといいよ」と言われて

合宿も終わって、サークル活動が少し緩やかになった頃、Yさんに「Hゼミに来てみない?」と誘われた。本来、ゼミは三回生から始まるものだ。それまでの二年間は基礎学習で、三年目になって専攻とゼミを決める。

まだまだ遠い「ゼミ」というものが体験できると思って好奇心が動いた。しかしHゼミが学内で問題になっているところだということは二年後に知るところとなる。

これからしばらくのわたしの人生に影響を与えたのがこのHゼミだった。



【シリーズ:坂道を上ると次も坂道だった】でした。


イラストは「みんなのフォトギャラリー」からお借りしました。




地味に生きておりますが、たまには電車に乗って出かけたいと思います。でもヘルパーさんの電車賃がかかるので、よかったらサポートお願いします。(とか書いておりますが気にしないで下さい。何か書いた方がいいと聞いたので)