清明を試みる僧

 安倍晴明の家に美しい二人の童を連れた老いた法師がやってきました。

「何か用ですかな」

 晴明が法師に聞きますと、

「播磨の国から来ました。陰陽道を習いたいという志があり、この道において優れている晴明殿に少々でも習いたいと思い、参ったのでございます」

 法師は微笑みながら言いました。

 上品な法師です。

供の二人の童も美しく、お香の香りを心地よく漂わせています。

 晴明はこの法師は賢く力を試しにやってきたのだと思いました。

 法師の連れている童は式神だろうと思い、式神を召し隠せと袖の内で印を結び、密かに呪文を唱えたのです。

「お茶でもいかがですかな」

 晴明は笑顔で言いました。

「ありがたい」

 法師は微笑み言いました。

 少女が二人にお茶を持ってきました。お盆にはお茶と一緒に黒い塊が置いてありました。

「これは団茶といって、茶葉を型に入れて干し固めた物です。そこの黒い塊が団茶でこれを削ってお湯を注ぎ飲みます」

 晴明はお茶の説明をしました。

「珍しいですな、さすがに評判の高い方は珍しい物を良く知っていらっしゃる」

 法師はそう言い、お茶を飲みました。

「唐の国では法師は皆、自由自在に身の回りの物を操り、法師は動かずに生活ができたそうです。ただ、あの国は今とても荒れていると聞きます。法師に力があっても上手くいかぬものです。いや、法師に力があるから上手くいかぬのかな」

 法師はそう言うと笑いました。

 二人はお茶を飲み、会話を楽しみました。

「今日はお帰りなさい。後の良い日にでも習いたいことをお教えしましょう」

 晴明は法師にそう言ったのです。

「あぁ、ありがたいことです」

 法師はそう言って手をすり合わせて感謝し、帰っていったのです。

 しばらくして、法師が再びやってきました。

「私の二人の童が消えました。それをお返しください」

 法師の言葉に、

「どのような理由で、私が童を取るのです。子供だから何処かへ遊びにでも行ったのでしょう」

 晴明は笑いながら答えたのです。

「私の非礼を詫びます。ですから童を返していただきたい。ただ許していただきたい」

 法師は詫びたのです。

「相手を選ばずに人を試そうとするからです。今度は相手を選んでお遊びなさい」

 晴明がそう言うと、二人の童が現れたのでした。

「式神を使うことは簡単ですが、人の使役している物を隠すのは、なかなか思うようにはなりません。今から貴方のお弟子になりたいと思います」

 法師はそう言うと懐から名簿を出し、晴明に差し出したのでした。


  聞き伝える昔の話でございます

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