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『永遠の夏をあとに』を読んで 〜忘れていたものを思い出した、その先に

こんにちは、ことろです。
今回は『永遠の夏をあとに』という小説を紹介したいと思います。

『永遠の夏をあとに』は、『彩雲国物語』シリーズを書いた雪乃紗衣・著、装画・中村至宏の小説です。

1999年と1993年を行き来し、~第十一章、終章、二〇一九年八月という全13章で構成されています。


主人公は、羽矢拓人(はや たくと)。
1999年の時点で小学六年生。
物語の中では、小学校最後の夏休みを過ごしています。
母親と二人暮らし。
父親がどうなっているのかはわかりません。
母親がいつからか今いる町に越してきて、住みつくようになりました。

拓人には彰という友達と、すず花という幼馴染がいます。ライバルですぐ喧嘩する数馬と、その数馬が最近危ない不良中学生と関わりがあるとかで、登場メンバーは割と多いです。

拓人は、昔(1993年)神隠しにあい、記憶を消されています。
その記憶は、サヤのこと。
サヤは拓人より10個上のお姉さん。
悲惨な人生を歩んでいることがあとでわかるのですが、サヤもまた拓人と一緒に神隠しにあった張本人なのでした。

記憶を消されてサヤのことは覚えていないはずなのに、神社まで遊びにきてはその下のバス停に誰かが来ないかずっと待っている拓人。
それは、もどかしく、けれど切なく、この物語の序盤を彩ります。

驚くのは、6年ぶりにサヤがバスに乗ってこの町(扇谷)に来たこと。
ここから物語は始まります。


この物語は1999年と1993年を行き来しながら、現在なのか過去なのか、現実なのか夢なのか時々よくわからなくなるような感覚で進んでいきます。
文章の書き方も幻想的で抽象的な雰囲気があるので、よく理解できないところもあります。はっきりした明言を避けているところもあるので、余計にわからなくなっている部分はありますが、それがこの物語の幻想性を成り立たせている部分ではあるので、苦手な方もいるとは思いますが、なんとか最後まで読んでみてほしいなと思います。

拓人は、お母さんが骨折で入院してしまって一人で夏休みを過ごさなくてはいけなくなり、周りの大人たちが心配をするのですが、本人はどこ吹く風でお気楽な感じ。
家事はある程度一人でできるので、そこは心配ないのですが、それでもまだ小学六年生。やはり心配です。
それでも花蓮(拓人の母親)は、今年で最後の小学校の夏休みを満喫してほしいと願っています。

朝のラジオ体操に参加したり、学校に向日葵の観察日記を描きに行ったり、友達と林間学校に行ったり、幼馴染と浴衣を着て夏祭りに行ったり……
拓人は母の願い通り、最後の夏休みを満喫していきます。

一方サヤの話はというと、あの日バスでやって来てから、いつまで居るとは言わないものの夏休み中は拓人の家にいてくれるみたいで、サヤはサヤで拓人との生活や花蓮のお見舞いや、得意のヴァイオリンを弾いたりで、充実しています。

たった一つ、拓人がサヤとのことを思い出せないことをのぞいて……

拓人は1993年(六歳頃)にサヤと会っています。なんなら三歳の頃にも会っています。しかし、記憶はありません。
どうして会ったのか、なぜ記憶がなくなってしまったのかは物語の中盤からラストにかけてでわかっていくのですが、二人の絆は儚いようで強く、切なく、もどかしく、拓人が諦めずにサヤを探すから成り立っている関係です。

サヤがヴァイオリンを弾き、拓人が調律をする、または下手だけれども拓人もピアノを弾いてみたりして過ごす日々は、かけがえのない幸福でした。
しかし、ずっとここにいたらいい、一緒に暮らそうと言ってみても、サヤはうんとは言いません。
どこかに帰らなくてはいけない身なのです。


学校で七不思議の話があったり、霊感があるかないかの話があったり(拓人は霊感ゼロ)、かと思えば神社という聖域があったり、ちょっとこの世ではない世界のことも絡んできたりします。
ただのお祭りなら楽しいのですが、やはり神事は大事な行事ですし、その神社一帯の森のなかも聖域として区切られていて、拓人はその向こうへ行ってしまったから神隠しにあったと言われています。
その鎮守の森の妖しさが夢かうつつかわからない幻想的な世界を描き出し、何が起きたのかはっきりとはわからないまま、帰れる人だけが現実世界に帰されます。しかし、そうではない場合、行方不明となって消えてしまうのです。


ある日、ライバルの数馬が不良中学生に目をつけられ、小学校も窓ガラスが割られたりして荒らされ、ケンカだけでは済まず殺されかけるという事件がありました。
そのとき、たまたま同じ場所にいた拓人も巻き込まれるのですが、その時からこの不良中学生との関係がつづき、事件がまた起きてしまいます。
とても小六、中学生の話とは思えないのですが、とにかくとても危険な状態で、警察が動いて逮捕されるような大きな事件です。
しかし、このときに友人が連れ去られたのが山の中で、神社の聖域のような場所だったので、また拓人は神隠しにあうかのごとく消えかけてしまいます。

拓人はサヤのことについて必死に思い出そうとしています。
彰や数馬、母親ももちろんサヤのことは覚えていて、忘れているのは拓人だけ。
なんとか思い出そうとするのと、この事件とがうまく絡み、結局拓人はサヤのことを思い出すのでした。

サヤは夏休みが終わったら帰ってしまうのか?
拓人は何を思い出したのか?
幻想的で記憶の海を泳いでるような、詩的な文章と物語。
永遠の夏をあとに、彼らはどうなっていくのか、ぜひ読んでみてください。
夏の儚く切ない物語です。

終わり方には賛否両論あると思います。
考察されてる方もいらっしゃるかと思います。
真相はわかりませんが、私はサヤが帰ってきたのだと思いたいです。幻想ではなく。


いかがでしたでしょうか?
不思議な物語で、あらすじもふわふわしていて掴みどころがない感じだったのですが、小学六年生が怪異現象も交えながら夏休みを過ごしていく、その最後の夏休みを、甘く切なく時に苦しく描く、少しファンタジーも入った物語です。
神社の聖域内での出来事がいちばんふわふわしているのですが、そこも魅力的な世界だったりします。
賛否両論ありますが、謎は謎のまま楽しめる方はぜひ一度読んでこの世界にハマってみてください。

長くなりました。
それではまた、次の本でお会いしましょう~!


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