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リクエストにお応えして Part2「群像劇を書くコツ」

先日、コメント欄でいただいたリクエストにお応えして、「密室劇を書くコツ」という投稿をしました。
今回もリクエストをいただいた「群像劇を書くコツ」について、私なりの考えをまとめてみたいと思います。

【はじめに 私は『glee』で群像劇を学んだ】

多くの登場人物のストーリーを並行して描いていく群像劇。
そのポイントを学ぼうと私が思った時、最初に頭に浮かんだのはアメリカの人気ドラマ『glee』でした。

『glee』の舞台はオハイオ州の田舎町の高校。
新任教師のシュー先生は、この学校の卒業生でもあり、高校時代はグリークラブ(合唱部)で活躍していました。
そんなシュー先生は、gleeをかつてのような”イケてる部”として復活させようと決意。
顧問になって、メンバー募集をしますが、集まって来たのは”負け犬”のレッテルを貼られた生徒ばかり。
それでも州大会優勝を目指し、gleeの面々の奮闘が始まる……といったストーリー。
テンポがよく、笑えて泣ける。ミュージカル形式で、毎回出演者たちのすばらしいパフォーマンスが見られる等々、魅力満載の作品です。

この『glee』を分析することで、私は以下の3つのポイントを学びました。

【その1 登場人物たちの共通項(=作品を通して描きたいこと)を明確にしておく】

『glee』の主要登場人物は、同じ高校の生徒たち(と教師)です。
共通項はそれだけではなく、皆、「理想の自分と、現実の自分のギャップ」に悩んでいます。
例えばヒロインのレイチェルは「歌の才能に恵まれた私は、スターになるべきだ!」と信じているのに、学校では「自意識過剰のイタい女」と見なされ、嫌われています。
顧問のシュー先生も「青春時代の夢よ再び!」とgleeの復活を目指しますが、思うようにはいかず、家庭にも問題を抱えています。

悩みの種類も、理想と現実のギャップへの立ち向かい方も、登場人物ごとに違いますが、「なりたい自分になれない悲しみを抱えている」という共通項が『glee』のテーマと繋がっていると言えるでしょう。

作品によっては、こういった内面的な共通項は、終盤になってから観客に伝わるようにしたり、明確に表すことはせず「じんわりと感じとってもらうこと」を目指す場合もあると思います。
そのような場合でも、作り手の中で「どんな人々を描くことで、何を伝えたいのか」がきちんと抑えられていなければ、「群像劇」ではなく、単なる「登場人物が多い作品」ができあがってしまうでしょう。

【その2 各登場人物のプロフィール、キャラクターを効率よく見せる工夫をする】

群像劇は、登場人物が多い分、テンポの良さ、情報の提示の効率の良さを心掛けることが大切。これがうまくできていないと、冗長になるはずです。
『glee』の中で、登場人物のプロフィール、キャラクターはどのように提示されているか、第1話のタイトル直後のシーンを例にとって見てみましょう。

朝、シュー先生が学校に出勤してくる。先生は、カートという生徒と、フィンやパックらアメフト部員たちが一緒にいるのを見かけて声をかける。
「カート、友達できたのか? フィン、宿題は?」
実はアメフト部員たちは、日常的にカートをいじめているが、先生はそれに気づいていない。
この日も先生が去っていくと、アメフト部員たちは、とたんにフィンをゴミのコンテナに放り込もうとする。
すると、カートが叫ぶ。「このジャケット、マーク・ジェイコブズの新作!」
フィンはこれを聞いて仲間たちを止め、カートのジャケットを預かってから、コンテナに放り込ませる。
パックたちはゴミにまみれたカートを嘲笑うが、フィンはどこか割り切れないような顔。

このシーンだけで以下のことが視聴者に伝わります。

シュー先生
・優しい先生。だが、生徒たちの実態をあまり把握できていない。(いじめに気づいていない。)

フィン
・アメフト部メンバー(=スクールカースト上位者)
・勉強は嫌い。(先生に、顔を見るなり「宿題は?」と訊かれている。)
・他のアメフト部員と違って、いじめられっ子への同情心もあり、いじめている自分に疑問も感じている。
・だが、「いじめを止めようぜ」とまでは言えない中途半端な状態。

カート
・いじめられっこで、ゴミのコンテナに放り込まれるようなことは日常茶飯事。
・オシャレが大好き。ファッションが彼のアイデンティティー。(自分はゴミにまみれても、大事なジャケットは守りたい。)

パック
・アメフト部員(=スクールカースト上位者)
・いじめっこ。フィンと違って、いじめを心から楽しんでいる。

このように、1シーンの中で、4人の主要登場人物のプロフィール、人間性がテンポよく描かれています。
視聴者は「面白いなぁ」と思って見ているうちに、作り手から色々な情報を与えられます。
作り手側から言うと「説明っぽさを感じさせずに、説明を完了させている」ということです。

【その3 まずは登場人物ごとの展開を考え、それらを一つの流れの中に並べていく】

第1話の中で「シュー先生のストーリー」はおおよそこんな風に展開します。
1)gleeを自分の高校時代のように”イケてる部”として復活させようと決意
2)難航しつつも部員を集めようとがんばる
3)妻の妊娠を知り、収入アップのため教師を辞めて転職しよう決意
4)やはり教師を続けて、glee復活を目指そうと思い直す

「アメフト部員・フィンのストーリー」はこんな展開です。
1)実は歌がうまいということをシュー先生に知られたのをきっかけに、gleeに入ることになる。
2)アメフト部の面々にはgleeのようなダサい部に入ったとは言えず、嘘を吐く。
3)アメフト部の面々に嘘がばれて、gleeから抜ける。
4)アメフト部への忠誠の証として、車椅子の同級生アーティーをいじめるよう強要されるが、それを拒否してgleeに戻る。

こういった「各自のストーリー」が並行して描かれていきます。
具体的には、
「シュー先生の話1)→フィンの話1)→レイチェルの話1)→シュー先生の話2)→……」
のような具合に、モザイク状に描かれていくわけですが、脚本開発の段階では、「フィンの第1話ストーリー」「シュー先生の第1話ストーリー」のように縦割りで展開が考えられ、その後、各パーツをどう並べるかが検討されているのだろうと思います。

パーツの並べ方を決める際のポイントは、
「テンポの良さを保てているか」
「分かりづらくないか」
「視聴者の興味を引き続けられているか」
といったところでしょうか。

……と、分かった風な感じで解説していますけども、解説することと、実践できることは別物ですので、いざ群像劇を書こうとなると、その度に私も頭を悩ませています。
でも、身につけるのが難しい技術こそ、持っていれば強みになるよね!と、自分に言い聞かせて精進していこうと思います。


これからもお互いがんばりましょう!

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