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「矛盾」が似合う職業

脚本家という職業は、何かと「矛盾」に縁があります。
ここでいう「矛盾」には二種類あって、一つは作品内の登場人物が心の中に抱える矛盾。もう一つは、脚本家自身が直面する矛盾です。

『魔法使いサリー』の最終回では、サリーちゃんたちが通う学校が火事になるそうです。(すみません。実際見たことはなく、そういうストーリだと聞いたことがあるだけなんですが、分かりやすい例なのでご紹介します。)
魔法の力で火事を消そう!とサリーちゃんは思いますが、周りにはクラスメイトたちが集まっています。実はサリーちゃんは、自分が魔法使いだと人間に知られたら、人間界を去らなくてはなりません。
 火事を消したい。
 これからも、友だちのみんなと一緒にいたい。
サリーちゃんの切なる二つの願いは、悲しいことに矛盾しているわけです。
例えばこれが、物語の登場人物の抱える「矛盾」です。

脚本家自身が抱える「矛盾」はというと、大抵、打ち合わせの場で出現します。
例えば、ある小説を原作としてドラマを制作しようという企画が持ち上がったとします。
まずは、ドラマ版のストーリーをどのようなものにするかを検討して企画書を作成。それを原作者サイドや放送局に確認してもらい、「いかがでしょう?」とお伺いを立てます。
どんな回答が戻ってきたかを、脚本家はプロデューサーから聞くことになるのですが、
「原作者さんも局も、大いに乗り気です! 順調です! ただ、双方1点ずつ、企画書上のストーリーから変更の要望が来てまして『マストでお願いします』ということなんですが、双方の要望が完全に矛盾しちゃってるんですよねー」
みたいなことがあるわけです。
「それでですね、今日はまずそこをどうするかご相談したいんですよ」
と、さわやかな笑顔で言われたりするんですが、ここでいう「どうするか」は決して「矛盾する二つの要望のうち、どちらを選ぶか」という意味ではありません。
考えるべきは「明らかに矛盾している二つの事柄を、同時に成立させるにはどうしたらいいか」です。

「矛盾していることを同時に成立させる……? それは、矛盾という言葉の意味をくつがえそうとする、あまりに壮大、または無謀なチャレンジなのでは……?」
という疑問は胸の奥にしまい込み、
「どうしたもんですかねー」
と話し合いを始め、その後はトライ&エラーを繰り返して脚本を作っていくことになります。

何しろ矛盾にチャレンジしているわけなので、そう簡単に答えにはたどり着けず、せっかく考えたアイデアを捨てることも多々あります。
作品ができあがってから振り返ると、自分の背後にボツアイデアが山ほど積み重なっていて、「死屍累々」という言葉が頭に浮かびます。
正直、「こんなにいっぱい捨てたのか……」という気持ちにもなりますが、そんなときは私が作劇を学んだ教室で、師匠が度々行っていた言葉を思い出します。
「生まれつき飛び抜けて頭がいいというわけでもない我々が、簡単に思いついたアイデアで、読者、観客を面白がらせることなんか出来ないですよ。これでもか、これでもかと知恵を絞るのは当然のことです」

……というわけで、本日も私は「矛盾と戦うDAY」を過ごしました。
明日もがんばろうぜ、自分。

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