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とっておきのカード

Eテレが好きです。子供向けの「おさるのジョージ」「ひつじのショーン」「おじゃる丸」、大人向けの「100分 de 名著」「オイコノミア」など、好きな番組がいっぱい。
でも今アツいのはやっぱり「ねほりんぱほりん」じゃないですかね。
番組公式サイト上の番組紹介文は以下の通り。
「顔出しNGの訳ありゲストはブタに、聞き手の山里亮太とYOUはモグラの人形にふんすることで『そんなこと聞いちゃっていいの~?』という話を“ねほりはほり”聞き出す新感覚のトークショー」

これまでに登場したゲストは「偽装キラキラ女子」「ナンパ教室に通う男」「サークルクラッシャー」など。
相当エグいところまで話を掘り下げても、「モグラのお人形とブタのお人形の会話」という形で表現されていることで程よく刺激が弱まり、見やすくなっている。間口が広いので気楽に見始めることができ、「ほう、面白いねえ」とか思っているうちに、最後はかなりディープなメッセージを受け取ることになる。
……という辺りが番組の魅力でしょうか。

それに加えてこの番組、構成がすごくうまい!と、一番最近の放送を見て思ったんですよね。
「トップオタ登場! アイドルとの結ばれぬガチ恋、衝撃の結末は?」

ある地下アイドルグループのファンのトップの座にいるという男性がゲスト。「トップオタ(通称TO)」としての喜びや苦悩が語られます。
「本気で付き合いたいですよ。ガチ恋なんで」と、推しメンへの思いを熱く語るトップオタのブタさん。
ところが番組終盤になると、実は彼が応援してきた地下アイドルグループは最近解散しており、彼はオタ活動を通してコミュニケーション術を身に付け、そのおかげで彼女ができたことが語られます。
視聴者が「このブタさんは、現在進行形で地下アイドルにガチ恋しているんだ」と思いながら見ていると、後になって「実は過去にトップオタだったときを振り返って話していた」ということがわかるわけです。
番組序盤、中盤でブタさんが、いろんなエピソードを現在進行形っぽく話しているのはおそらく、そのように、うまく演出されているからだと思います。
そして、その演出と「情報後出し」のおかげで、視聴者がより深く番組に入り込めるようになっているんだな、とも感じます。

インタビュー内容のほとんどが実は過去の回想でありながら、そうとは気づかせないようになっていることで、視聴者はブタさんの「変化の過程」をリアルタイムで見ているような感覚が味わえるんですよね。
「オタ活開始→トップオタにのぼりつめる→しかしアイドルは解散しリア充ライフへ」という展開があることで、30分番組を飽きずに見られる構成になっているんじゃないかと思うわけです。

でもこういう手法がこの番組オリジナルのものかと言えば、そうでもない。
最近、ある事件記者の方の著書を読みまして、その人がある事件の取材を続け真相に迫っていく過程が描かれていくんですけども、この本でも「実は取材開始から程なくして、記者はある重大な事実を突き止めていたのだ!」ということが終盤になってから明かされるのです。
取材の過程を時系列順に提示されていると思い込んで読み進めていくと、”後出し”で「実はこんなことが……」という事実が語られるわけですね。
でも読者である私は、この方法がアンフェアだとは感じませんでした。この順序で提示してくれたことで、著者からのメッセージがより深く伝わってくるので、「ずるい」とは感じないんです。
逆に、こういうことをやろうとして失敗しているノンフィクションもあると思う。途中で「衝撃の事実が!!」とか煽ってくるものの、「いやいや、それ、都合よく情報出す順番変えてるだけだよね」と白けてしまったりして……。
視聴者や読者を引きこめるかどうかは、構成の巧みさに掛かっている部分が大きく、それはフィクションの世界でもまったく同じだと思います。
「とっておきのカード」をどのタイミングでどんな風に切るか、という判断が「思わずのめり込んでしまう作品」になるか「ご都合だな」と思われるかの分岐点になる……。

長々書きましたけども、要するに「構成、めっちゃ難しいよね」って話です。

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