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「魔術とは」

「オ兄チャン、魔術とか使うン?」

「えっ。。。!?」

会話のキャッチボールとは、相手の投げてくれたボールに対して、気の利いたボールを投げ返すのが流儀であり、誠意だと思っているのですが、だいたいどんなボールが来てもそれなりに投げ返せるという自負があった自分でも、この変化球には、思わず「えっ。。。!?」と言葉に詰まってしまいました。


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もう、数年前になるでしょうか。。。

シプカはご存知の通り、少し変わった、というか変なものを多く取り扱っているので、個性的なお客様がご来店くださる事が多いのですが、この時お越し頂いたお客様も、自分にとって忘れ得ぬ印象を残す方でした。

その日もお店の前で、サボ...思索していると、一人の男性に声をかけられました。

「オ兄チャン、この店のひと?」
「なんの店なん?」

シプカは2階にあって下から見る限りでは何の店かよくわからない(実際入ってみてもよくわからない)ので、このように声を掛けられることがよくあります。

「あ、えーと、アクセサリーとか、ちょっと変わったものが色々と。。。」

「ふーん。ちょっと見せてもらっていい?」
「あ、どうぞどうぞ」

ここまではよくあることなのですが、いつもと違ったのは、男性は、お店に入るなり、床に片膝をつき片手を地面につけて何か思案しているのです。


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(あ!なんか、よくマンガとかで何か召喚するときのポーズ!)

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内心めちゃめちゃ動揺しましたが、男性はいたって真剣な様子なので、こちらも失礼のないように平静を装います。

これには我ながら、プロだな...と思いました。

「オ兄チャン、魔術とか使うン?」
「えっ。。。!? 。。。えっ???」

プロ失格です。

「オ兄チャン、魔術とか使うン?」
「!(もっかいキタ!)えっ。。。いや、使わない。。。です」

「使わんのん?」
「あ、いや、そう...ですね。使いかたも分からないですし。よく...分からないです...」

「そうか...。オ兄チャン、無意識で(魔術)使っとるで。」
「!」
「........!?」


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これはアレかな。
"人はみな可能性という名の魔術を使える" とか、そういう類のお話かな。
あ、なるほど!ことり納得!

「名古屋、震災の被害なかったやろ?あれ、オ兄チャンが防いでたんやで」

!!!

(えぇぇ〜〜〜!??  そ、そうなの!?し、知らんかった。。。!)

で、でもそういうのって、お家が代々由緒ある家系だとか、先祖が高名な術師だとか、そういう設定付与があるんじゃないの。。。?

うち、おじいちゃんが魚屋さんで、お父ちゃんが魚嫌いだから、魚屋やめちゃって会社員だったんですが。。。全然魔術の「ま」の字も出てこない普通の出自なんですが。


「なるほどな....」
「え?」

「最近、こっち(名古屋)の方から強いエネルギーを感じとった。今日、自分が来たんは、ここに呼ばれたんやわ」
「ここ(シプカ)が名古屋の魔術の大元や」


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「!!!」

どえらい壮大なスケールの話になってきた。。。

「今日、ここに呼ばれてきたのには意味があるから、お兄チャン、自分になんかアクセ選んで見繕ってくれる?それが必要なエネルギー持っとるものだから」

(おぉぉぉ....そんな「今度友達のパーティー行くから、店員さんお勧めの自分に似合いそうなの選んでもらえる?」みたいに言われましてもぉぉ...)

シチュエーションのみを切り取ると【お客様にお似合いのアクセサリーを選んでご提案する】って至極真っ当なんですが、こんな凄そうな人に必要な魔術パワーを秘めたものを選ぶって...しかも"魔術名古屋代表"的な謎のプレッシャーもかかってるし。。。

ぼく、壁にガムテープ貼るくらいしか取り柄ないんですが。。。!?

どうしよう。。。!?


その時です。
携帯に通知が。

「今、シプカ向かってる〜」とのひどらちゃんからのLINEでした。

(はっ!?占い師であり超常パワーを持つ ひどらちゃんと、このお客様が相対したら果たしてどうなっちゃうんだろう。。。?)

(もし、ここでサイキックバトルが勃発して、ふたりのパワーがぶつかったら、一般人のワイはエネルギー派で吹き飛んで跡形もなく消滅してしまうんじゃなかろうか。。。?)

YA・BA・I ....!!!

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できれば吹き飛びたくないので、セカンドインパクト(ことり隊長消滅)をなんとかして防がねば!

でも、どうしよう。。。
「あと10分くらいで着く〜」
ひどらちゃんは着々とこちらに近づいています。


その時です(2回目)

シプカは「せめてここにいる間は時間を忘れてほしい」という想いで、時計を設置していないのですが、代わりに振り子時計のムーブメントが掛けられており、朝、ネジを巻くと1時間ごとにボーン、ボーンと鳴るのですが


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見計らったかのように、歯車が動き出し、
カチッ、ボーン、ボーン、ボーン
と時計の音が店内に鳴り響いたのです。


その音を聴いた途端、男性はハッとした表情になり、「あ!今日は帰りますわ」と言って帰ってしまわれました。

「え!なに!?何がおこったの....!?」

全く何が起こったのか分からず茫然自失状態でしたが、こうして、とりあえず、セカンドインパクト(ことり隊長消滅)は免れました。


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あれから数年経ちますが、今でもたまに思うんです。
ガムテープを壁に貼るくらいしか取り柄の無いぼくですが、本当はすごい魔術使えたりしちゃったりなんかしちゃったりして〜(広川太一郎風)

でも、実際はガムテープを壁に貼るくらいしか特技ないんですねぇ〜。

残念!



※この記事はムラサキさん主催の「眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー」に題材がぴったりでしたが「書類のお仕事がいっぱいある」ため参加しなかったやつです。
...だったのですがお仕事から目を背ける為、結局書きました。
書類やりたくない 一心で書かれたものの為、乱筆乱文お許しください。



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↑いろんなお客様が来るよ的なおはなしです。

↑今回のnoteはこの記事の最後の部分で触れられている「語られざる事件」のことです。

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