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和歌・春の夜の夢

「夢のうちもうつろふ花に風吹きて
 しづ心なき春のうたたね」
 続古今和歌集・式子内親王

満開に咲いた桜に風が吹き、
桜吹雪が舞うさまを
じっと眺めているうちに
いつの間にかわたしは
美しい春の夢の中をさまよっていた。

夢の中に現れた、
大きな桜の木。

溢れるように咲いた花が
真っ暗な闇の中で
霞むように白く輝き、
ぼうっと浮かび上がるさまは
まるで幻のような美しさ。

わたしは思わず手を伸ばした。

すると
とたんに風が吹き、
桜の木の枝は全身を震わすように大きく揺れ花びらがいっせいに舞い散った。

ハッとして、目を覚ます。

まだ、この胸がドキドキしている。

夢の中でも桜の花が散っていた。

いつまでもとどめておけるものなら
よいものを、
花の命には必ず終わりがある。

散ってゆくには
まだまだあまりにも美しいのに…。

名残惜しさに見た夢が、
花を散らす風のように
心をざわめかす
春のうたたねであったことだよ。

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