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52ヘルツのクジラは孤独じゃない。声を上げれば誰かに届く。

2021年の本屋大賞に輝いた作品『52ヘルツのクジラたち』(町田そのこ氏著)

本屋大賞とは?

商品である本と、顧客である読者を最も知る立場にいる書店員が、売れる本を作っていく、出版業界に新しい流れをつくる、ひいては出版業界を現場から盛り上げていけないかと考え、本屋大賞は発案された。

本屋大賞は書店員のみなさんが、「この本であればお客さんに自信を持ってオススメできる!」と現場目線で選定される賞になる

過去に大賞には『流浪の月『そして、バトンは渡された』かがみの孤城』『蜜蜂と遠雷』『羊と鋼の森』が受賞している(2020年~2015年)

今この記事を読んでいる方も、知っている作品や実際に手に取って読んだ経験もあるかもしれません

52ヘルツのクジラたち

52ヘルツのクジラとは―他の鯨が聞き取れない高い周波数で鳴く、世界で一頭だけのクジラ。たくさんの仲間がいるはずなのに何も届かない、何も届けられない。そのため、世界で一番孤独だと言われている。自分の人生を家族に搾取されてきた女性・貴瑚(きこ)と、母に虐待され「ムシ」と呼ばれていた少年。 孤独ゆえに愛を欲し、裏切られてきた彼らが出会い、新たな魂の物語が生まれるーーー。(著書の帯文章より抜粋)

物語の主人公は貴瑚という女性が、新しい土地で第3の人生を歩み出す。第1の人生は搾取され続けた家族との人生、第2の人生は自分を必要としてくれた人たちとの人生、そして第3の人生は全てをリセットしてスタートしていく

物語の中で、貴瑚は自分の近い存在から搾取をされ続けてきた場面が描かれる。そして、壊れた人形のような自分を救い出してくれたアンさんや友人との関係が彼女の弱さ、脆さと同時に、愛するという気持ちを生み出していく

彼女は何度も躓きながらも、同じように傷を抱え、家族に搾取されている「ムシ」と呼ばれる少年に愛を注いでいく

切なくもあり、尊い、そして怒りや悲しみ。多くの感情が心からあふれ出す物語だ

誰にも届かない「声」

物語の中で描写される「52ヘルツのクジラ」について

他のクジラが聞き取ることができない高い周波数で鳴くクジラ

自分の声が届かない。まるで自分が透明になったような、周りからは視認されないようなそんな感覚かもしれない

私たちが送っている、日々の生活に当てはめてみるとどうだろうか?

自分の声が届かない。いや、物理的には届いているのかもしれない。だけど、届いてない。反応がない。まるで、そこに何もないような感覚。

自分の声を届けられない。自分の心の中だけで、誰にも届かない空間、時間を選んで声をあげる。その声は実際に音としてあるが、誰にも届かない。届けようとしてないわけではなく、届けることができないのだ。

そんな声を聞こうとしているだろうか?

聞こえない振りをする。聞こうとしない。興味関心を持たない。知らず知らずのうちに、届かない声をつくりだしてしまっているかもしれない

作品を読んで届いてほしい「声」

この作品の中には様々な問題提起が挙げられている

文字通りこれは社会の声であり、筆者の声であるように個人的に感じた

虐待、DV、パワハラ、性差別、自分たちの日常の中で表層化してこない社会的な課題。誰かが解決してくれる課題ではなく、あなた自身やあなたの周りでも起こりうる出来事でもある

52ヘルツのクジラは孤独じゃない

タイトルにもある通り「52ヘルツのクジラたち」なのだ

声を受け取ってくれる人も、あなたの声を聴こうとしてくれる人も、この広い世界中に必ずいる

届かない声と悲観することなく、手を差し伸べて欲しい

そして差し伸べられた手を掴んで欲しい

届かない声とあきらめずに声を上げて欲しい

絞り出した、どんな小さな声であっても、あなたの声がこの世界に現れたとき、その声を聴いてくれる人が必ずいるはずだから



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