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Mさんに見えている世界
「ぐうぅぅぅぅぅぅぅぅぅっと」
「36(さんじゅうろく)なんだよ」
「そうだよねぇ」
「ポンポンーン!」
Mさんが発する言葉からMさんの見えている世界を想像するのは不可能だ。
いつもニコニコしているMさん。
認知症高齢者だ。
認知症になる前は、介護施設の経営者だったそうだ。今は、認知症対応型のデイサービスに通っている。なんという人生なんだろう。
恰幅がよく長身で、昔ながらの社長そのままに頭はバーコードになっている。でも裕福な感じがあり、スラックスとポロシャツがよく似合う。
僕は、Mさんが大好きだ。
予告なしにおしっこする。前触れもなくお尻がこんもりしている。
そして、お尻こんもりのままソファーに座る。
僕は、そんなMさんが大好きだ。
僕はMさんから目を離すことはない。
いや、片時も離すことができない。
とてもスリリングな時間を過ごしている。
Mさんは、僕が見えているのだろうか。同じ世界に僕は存在しているのだろうか。
たとえ、僕がMさんの世界に存在していなくても、僕は僕で存在していればいい。そして、ニコニコしていればいいのだ。
Mさんは、いつもニコニコしている。
僕は、Mさんが大好きだ。
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