見出し画像

デイサービスは雀荘になった。

内臓に蓄積された糖分のせいだろうか。
高齢者なのに、ニキビや吹き出物ができている。

デコと眉間には深い皺が刻まれていて、顔面の色はドス黒く油っぽい。切れ目で口角は下がり、クレジットカードリーダーのようなほうれい線がある。
コールタールのような汗。真冬でも肌着とスウェットだけで体温を平熱に保っている。ゆえに大柄。分厚い皮下脂肪の鎧を纏い重量感たるやダンプカー。その長身はラスボス感を漂わせ、背の低くなった高齢者を見下ろす。
しかし足に痺れがある。
アルコールを愛し過ぎてふくらはぎはカチカチになった。亀よりも遅いスピードで歩く。足音はない。全体重を支える両足は杖の助けを借りている。靴の踵は踏んづけられたままで、春夏秋冬起き上がることは許されていない。
さらに心臓も悪い。
湯船に浸かることができず、熱いシャワーで入浴を済ます。
その疾患だらけの体は、若い時の悪事のしっぺ返しなのか、はたまた豪遊してきたカウンターパンチなのか。
このパンドラの箱は、あえて鍵を掛けたままにしておいている。

そんな見るからにアウトローな人でも、デイサービスに来ている。話好きの女性利用者に混じってデイサービスを利用する。

無口で誰とも仲良くしようとはしない。長テーブルの隅、壁際の席を好み、他の利用者さんの声をかき消すかのようにFMラジオをかけ流す。多分内容なんか聞いちゃいない。

「俺は麻雀をしにきてるんだ」吐き捨てるように言い放った。

ぼくの勤めているデイサービスでは昼食のあと、利用者さんそれぞれ好きに過ごしてもらう時間がある。工作をしたり、お菓子をつくったり、運動したり。集団で行うレクリエーションとは違う個別の時間が設けられている。

その方は、麻雀がしたいがために来ていると言った。
麻雀が命を繋いでいると言っても過言ではないかもしれない。
アルコールもギャンブルも愛してきた生粋のアウトローなのか。

他の利用者さん、麻雀ボランティアの方、職員、そしてアウトローを含めた4人のメンツが揃う。デイサービスは雀荘になった。

確かに麻雀は指先も使うし、役(やく)を作るために記憶力も使うし、洞察力も必要だ。勝ち負けのあるゲームでアドレナリンやドーパミンもでるだろうし。リハビリやレクリエーションに効果的だと思う。
麻雀ができるということは、脳の機能は十分に保たれている証拠だ。

アウトローは誰よりも先に着席していた。牌を人差し指と親指で摘み、目を閉じてさすっていた。

ぼくも参加しての4人打ち。ぼくは辛うじてTVゲームで弱いAIに勝利できるくらいの実力しかない。はっきり言って弱い。


「リーチ、ピンフ、タンヤオ、ドラ、、」

ぼくは容赦なく「ロン」する。
アウトローから「ロン」する。

アウトローは麻雀が弱い。
今日、一度もアガれなかった。
いや、記憶力とかそんなん関係なくて、
マジで弱い。

麻雀をしに、デイサービスにきているのに。


介護は大変。介護職はキツイ。そんなネガティブなイメージを覆したいと思っています。介護職は人間的成長ができるクリエイティブで素晴らしい仕事です。家族介護者の方も支援していけるように、この活動を応援してください!よろしくお願いいたします。