ふたつの顔を持つ男
AM8時、玄関前。
玄関先でなにやら口論。
「こんな無駄なことに税金使ってるからこの国はダメなんだ!」
「はやく死ねばいいんだ!」「揃いも揃ってしょうもない!」
「早く行って、ほら!」
暴言の主は、デイサービスの送迎車に渋々乗ることになる。
毎回繰り広げられる口喧嘩であり奥さんとの痴話喧嘩。
見守りるしかない。止めに入ったところで、次回も同じようなエチュードを見せられるだけだ。
助手席に座ったご主人は、少し不機嫌そうな顔でシートベルトをされる。
ドライビングの安全防止なのか、それともセーフティーな身体拘束なのか。
数十分、エンターテイメント空間への道のりにご同行願う。
着く頃には、しっかり外行きの顔に変わっているから不思議。
社会性はこうして保たれているのだと、あらためて外出の重要性を感じるのである。
「おはようございます」
「朝、冷え込むようになってきましたね」
「そうだねぇ。体が動かんようになってきたわ」
あの暴言・暴君は何処へ。職員の問いかけに落ち着いて応える。
両手で歩行器を握り締め、赤ちゃんのハイハイよりも遅いスピードでデイサービスの玄関をめざして歩いている。
いや、社会性なのか内弁慶なのか。送迎に行かない職員は、温厚な利用者さんとして迎え入れるのであった。
「昔、生産管理の仕事をしていてな、上海・韓国・ベトナムとか、いろんな国で人材育成しとってな、」
自転車漕ぎをしながら饒舌におしゃべりをするのを見ると、居心地は悪くないようだ。
介護は大変。介護職はキツイ。そんなネガティブなイメージを覆したいと思っています。介護職は人間的成長ができるクリエイティブで素晴らしい仕事です。家族介護者の方も支援していけるように、この活動を応援してください!よろしくお願いいたします。