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しろーく光が差しているだけ

その人は、玄関の方へ向かう。
壁にかけてある麦わら帽子を手に取り頭の上に乗せる。カバンの中からサングラスとハサミを取り出しサングラスをしてトップガンになる。
下駄箱の前で長靴に履き替える。玄関脇のカラーボックスから軍手とスコップを取り軍手を装着しスコップは後ろのポケットへ。

ウッドデッキに出て畑の方へ歩いていく。
石段を降りて畑へ出る。

左奥の畝には、小松菜がお祭りのように育っている。これはその方が種子を植えて育てた。

隣の畝には、たまねぎが植えてある。1列4つ20列。これもその人が苗を植えた。

デイサービスで犬を2匹飼っている。わんぱくな二人は施設内を縦横無尽に走り回る。フロア内を走り回り畑もお構いなしに踏みつけていく。土を耕すわけでなく、苗をも踏み荒らしていく。

苗をも踏み荒らしていく対策として、その人は畝の周りにネット張った。
支柱を土に埋め込みビニール紐で渡し、ネットをかぶせた。
犬は流石に二の足を踏むようになった。

おかげで玉ねぎはぐんぐん育っていく。

さつまいもを掘ったり、イチゴの苗を植え替えたり。
畑のほとんどをその方が面倒みていた。

今日も畑仕事を終えて、

石段の脇に置いておいた白杖を手にとり、石段をあがりウッドデッキからデイサービスの玄関に向かう。

この方は、盲目だ。

ここまでの行動を、介助なしでやってのけてしまう。

ぼくはいつも度肝を抜かれれいる。

「どのくらい見えるのですか?」そう聞いたことがある。

「全く見えん。しろーく光が差しているだけじゃ。」無骨なようで優しい広島弁。

「畑の場所はどうしてわかるんですか?」これが一番の不思議であり度肝を抜かれていることだ。

「目が見えていたときの映像が頼りじゃ。あとは音とか匂いか。」

まじか、そんなんでできるものなのか。いまだに半信半疑ですが、私。

「お前、昨日にんにく食べたろ。臭うぞ。」

にっこりと笑いながら、発達した嗅覚でぼくの昨日を見破ってきた。

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