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高齢者組み手バトル

右手が飛んでくる。
ヒラリとかわし、左手をとりにいく。
相手は頭突きのモーションに入った。

僕は体の距離を縮めてダメージを最小限にする。おそらく次は噛みつきがくるだろう。

車椅子に乗ったNさんは巧みな組み手で、僕らの好意の手をかわす。

僕らも背に腹は変えられないのである。もちろん自分たちのことを守るためではない。Nさんの健康を守るため、そして命を守るために必死なのだ。

Nさんはストーマ(人工肛門)をつけている。認知症がゆえ、お腹に違和感を感じるとストーマを手で触ってしまう。

便がもれて大変なことになっていても、本人に自覚はない。

それがゆえの「組み手バトル」なのだ。本人からすれば、なぜお節介をしてくるのかが理解できないのだ。

「やめろこんちくしょー!」

「いたぁーーーーい!」

「二度と来るかぁ!こんなところ!」

「○せぇ!!」

響わたる怒号。悲鳴は、はたから見たら虐待にも見える。この勘違いは到底不本意。どうかわかって欲しい。そんなつもりは一切ない。

Nさんが元気で楽しくいられるように、みんな必死なだけだ。

強烈なインパクトを残してくれる方は、介護の仕事をしている人にとって財産なのかもしれない。

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