環境アセスメント(環境影響評価)とは何か?目的は?問題点、課題は?



問:環境アセスメント(環境影響評価)とは何か、150字以内で説明しなさい。


ダメな解答例:
環境アセスメントってのはなあ・・・まあなんか評価するんだよ。



解答例:
環境アセスメント(環境影響評価)とは、公共事業や工業団地、都市計画などの開発にあたって、その結果が自然環境や人の健康などに与える影響を事前に調査・予測・評価し、結果を住民などに公開して意見を集め、事業計画に反映させることで環境の保全をはかる制度である。(126字)



《環境アセスメントの趣旨》


交通の便をよくするために道路や空港を作ること、水を利用するためにダムを作ること、生活に必要な電気を得るために発電所を作ること、これらはいずれも人が豊かな暮らしをするためには必要なことではあるが、それによって環境に悪影響を及ぼしては本末転倒である。実際に、こういった大規模公共事業によって大気汚染・水質汚染といった顕在化しやすい被害だけでなく、生態系の破壊や生物多様性の喪失、思わぬ経済損失といった、ある程度時間が経ってからその重大性に気付くような被害をもたらしたケースは多数確認されている。(諫早湾干拓事業が有名)
 このような被害を最小限に抑える為に導入されたのが環境アセスメントである。大規模公共事業を実施する前に、その事業によって自然環境や人間の健康にどのような影響を与えるのか、不可逆的な損失は生じないか、費用に見合う成果が得られるのか、といった事を調査・予測・評価することが狙いである。また、調査するだけでなく、その分析結果を当該地域住民に公開した上で議論を重ね、事業計画に反映させることで環境の保全を図ることが肝要だとされている。
 アセスメントの対象となるのは、国が関与する事業のうち、規模が大きく環境に著しい影響を及ぼすおそれがある13の事業(道路、河川、鉄道、飛行場、発電所、廃棄物最終処分場、公有水面の埋立及び干拓、土地区画整理事業、新住宅市街地開発事業、工業団地造成事業、新都市基盤整備事業、流通業務団地造成事業等)である。


《アセスメント(assessment)とは》


 アセスメントはラテン語由来の英語であるため、少しニュアンスが掴みづらい。assessmentを辞書で引くと、「評価」「査定」といった訳が出てくるが、日本人が通常用いる「評価」という言葉に対する印象とは少し異なる。

 assessmentには、「見積り」や「最終評価の前の段階で進行中」という意味合いがある。環境アセスメントなどはまさにこの通りで、事業実施の最終決定を下す前にアセスメントをしないと意味がない。

 一方で「評価」というとevaluationが先に連想される方もいるだろうが、こちらは「価値付ける」という語源からして、相対的な価値を数学的に表す最終的な評価プロセスであると言える。

 教育に当てはめて考えると、新しい指導方法の良し悪しや成果の見込み等を分析するのがアセスメント、テスト結果を受けて「これはA」「あれはB」と価値付けていくのがエバリュエーションということになる。

 日本語における「評価」という語はこれらを混合した概念であるが、英語においては区別して用いられるので、外国の論文等を読む際は留意しておくべきであろう。

※ちなみに、「彼のことは評価しているよ。(優れた点を認めている、高く買っている)」というような時に用いる「評価」はappreciateである。


《環境アセスメントの歴史》


 環境アセスメント制度化の端緒は、アメリカ合衆国で1969年に制定された国家環境政策法(1970発効)であるとされている。その後、各国がこれに続き、日本でも法律化されることとなった。
 日本では1972年の閣議了解「各種公共事業に係る環境保全対策について」や、工場立地法、公有水面埋立法、港湾法、瀬戸内海環境保全特別措置法で、公害事前調査ともいうべき初歩的な環境アセスメント制度が定められ、関西国際空港や苫小牧(とまこまい)東部などの工業基地開発に際して公害予測調査が行われた。環境庁(現環境省)は中央公害対策審議会(現中央環境審議会)の答申に基づき、環境影響評価法案を提案してきたが、事業官庁と財界などの反対のため長らく国会提出に至らず、ようやく1981年に提出された法案も、結局1983年に廃案になった。反対理由は、環境影響評価の技術手法が確立していないことと、この制度が訴訟を増加させ、公共事業の進行を妨げるという点にあった。
 そのかわりに、政府は1984年8月に環境影響評価を行政措置として行うことを決定し(いわゆる閣議アセス)、建設省(現国土交通省)は1985年4月、一定規模の道路やダムをつくる際は事前に環境影響評価を行うよう通達を発した。法律の不十分さを行政手続きによって補おうとしたのである。しかし、この通達を根拠とするアセスメントは対象事業が少ない、住民参加が不十分、いざ問題が発生した際に訴訟で争う方法がない等多くの問題があり、アセスメントの法制化が必要であった。
 他方、日本各地では公共事業の弊害や環境問題が深刻化していた。地方自治体は国の立法を待ちきれずに環境影響評価を制度化し始め、早くより川崎市、北海道、東京都、神奈川県などかなりの地方公共団体が条例や要綱(行政内部的な定め)を制定していた。判例では、環境影響評価をしていない屎尿処理場やごみ処理場の建設差止めの仮処分が認められたケースがある。
 その後、1993年(平成5)11月に制定された環境基本法に、環境影響評価の推進に係る条文が盛り込まれ、1994年12月の環境基本計画において「環境影響評価制度の今後の在り方については、法制化も含め所要の見直しを行う」との政府方針が示された。この方針に沿って、内外の制度実施状況、技術手法などについて調査研究が行われ、中央環境審議会に諮問した。同審議会は1997年2月首相に法制化を求める答申を出し、環境影響評価法(環境アセスメント法)はようやく同年6月に成立し、1999年6月に施行された。




《環境アセスメントの課題》


大きな必要性と期待感をもって法制化された環境アセスメントであるが、依然として課題も多い。以下、箇条書きで主な問題点を挙げていく。

・実質的意義の空洞化
事業者がアセスメントを行うので、「影響は軽微」という結論を導きやすい。
ある種当然とも言えることであるが、事業者側はその事業を実施したいから計画を進めているのであって、事業への反発を引き起こすようなデータはなるべく出したくない。つまり、「事業を実行する」という結論が先にあって、その結論を補強し正当化するようなデータばかりを集めてしまう、ということが往々にして起きる。

・アセスメントの時期
アセスメントを行う時期が特定の事業段階であって、もはや代替案を採用するには遅すぎる場合がある。大規模公共事業は様々な利害対立や政治的駆け引きを経て決定されるものであるため、計画が頓挫したからといってすぐに代替案を用意することはできない。

・情報の非対称性
住民や専門家・関係自治体の意見を広く聴く機会が何度も用意されるが、それでも実際には住民の意見反映の機会は足りないという意見もある。そもそも当該地域住民は利害関係者ではあるが、建設の専門家ではない。データを公表されたところで全てを理解することはできず、結局は専門家の言うことを信じる外ない。事業者側と住民側では持っている知識量があまりに異なるのである。


※ワンポイントアドバイス


環境問題関連はホットなテーマであるので基礎知識を身に付けておきましょう。法律の制定年度を闇雲に覚えるのではなく、高度経済成長や公害問題の深刻化といった当時の時代背景を考えながら環境意識の変遷を想像すると覚えやすいと思います。近現代の政治史・経済史と並行して学習するのがオススメです。
また、ここで挙げたような課題については未だに明確な解決法が確立されていないので、議論のテーマになることもあります。各自で自分なりの意見を用意しておきましょう。


《おわりに》

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