てつびんてつこさん
私はてつびんのてつこ。
このおうちで誰よりもみみちゃんの健康を守っているの。
私は三代目の鉄瓶で、いっぺんにたっぷりのお湯を沸かすことができる。
みみちゃんが最初に買った小さなきょうだいは容量が少なくて、みみちゃんのお母さんが使うことになった。
みみちゃんのお母さんは小さくてかわいいものが好きだから、ミニチュアの鉄瓶みたいなきょうだいをとても喜んだんですって。
次にみみちゃんが買ったのは中くらいの大きさのきょうだいだった。
中くらいの大きさのきょうだいは650ml のお湯を沸かせる子だったんだけど、やっぱりみみちゃんには足りなくてその子はみみちゃんのお姉さんが使うことになったの。
そして、満を持してみみちゃんのおうちにやって来たのがこの私。
私は1200ml ものお湯を沸かせるし、体も大きくて立派なのよ。
みみちゃんは2日に1回くらいのわりあいで私を使ってくれる。
人間が1日に飲んでいい鉄瓶のお湯の量は800ml くらいらしいから、毎日は沸かさないように気をつけているのね。
みみちゃんは、体があんまり強くない。
150センチとちょっとしかない身長で、横もぜんぜん大きくない。
ぜんたいてきに小柄で腕とか指も細くって、私はそんなみみちゃんのことがたまに心配になる。
みみちゃんはむかし、貧血気味だったらしい。
お医者さまに診せに行って、体に鉄分がだいぶ足りないから鉄をとるようにって言われたんですって。
それで最初はがんばって鉄剤を飲んでいたらしいのだけど、できるだけ自然なかたちで鉄をおぎなえるようにするために、鉄瓶生活を始めたのが私たちきょうだいとの出会いだった。
みみちゃんが飲んでいた鉄剤は、口に入れても大丈夫なのって聞きたくなっちゃうような鮮やかな青色で、以前からおうちにいるみんなはとても心配になったって言ってたわ。
だからみみちゃんがあの青色の奇妙な鉄剤を飲むのをきっぱりやめて、鉄瓶を使い始めたことをみんなが喜んだのよ。
みみちゃんが私たちきょうだいで沸かしたお湯を飲むようになってから、みみちゃんの体にはみるみるうちに鉄分が増えていった。
お医者さまも数値をしらべて驚かれたくらいによくなって、35.8度くらいだった体温も今では36度の後半くらいになったのよ。
みみちゃんは自分の体があんまり強くはないことをちゃんと自覚していて、いつも健康に気をつけている。
みみちゃんのお母さんとお姉さんがそれを心配していることも知っていて、できるだけ自然なものや体にやさしいもので整えようとがんばっているの。
だから毎朝体温を測ってみたり早寝早起きや体にいいごはんを食べることを心掛けている。
私はそんなみみちゃんをえらいなって思っている。誇りに思っているって言ってもいいくらいよ。
カーテンのすきまから、朝の明るい日差しが入って来た。
もう少しでみみちゃんが起きて準備を始める時間。
私はみみちゃんがお水を注いで火にかけてくれるのを、幸せな気持ちで待っている。
この小さな物語に目を留めてくださり、 どうもありがとうございます。 少しずつでも、自分のペースで小説を 発表していきたいと思います。 鈴木春夜