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方言調査企画「ほぉ~げんワード」の舞台裏



方言調査企画の「ほぉ~げんワード」が始まって早3年
気づけば7回目です。
うち3回は私が気になったテーマについてアンケートをとりました。
下のリンクはその一つで、最新の企画です。


校閲といえば、「記事を書かない記者」
そんな中でほぉ~げんワードは、アンケートをとり、結果を集計し、紙面のみならずウェブ限定の記事も掲載する、校閲部員にとってはちょっと異端な企画です。
今回は、このほぉ~げんワードの執筆過程についてお話します。


まずは題材


初めに題材を探さなければ始まりませんが、実はここが最初の難所。
中日新聞の発行エリアが広いからです。

ほぉ~げんワードの記事や普段の紙面で書かれる「中部9県」は、「愛知岐阜三重長野福井滋賀石川富山静岡」を指しています。
調査する立場としては、この9県全ての新聞読者にアンケートに参加し、記事を楽しんでもらいたい。
そうなるとできる限り9県にまたがるような方言を扱いたいと思うのですが、なかなかそういったものは簡単には見つかりません。
そのためこの題材選びは、毎回悩ましいものになるのです。

余談ですが、学校で習った中部地方とは違っているため、入社した当初はこの9県を中部と表すことに違和感しかありませんでした。


今はさすがになれました


いつもヒントにしているのは、今までのアンケートの自由記述欄です。
毎回全て目を通していますが、どのような方言に興味があるのか、使われている方言にはどんなものがあるのかを知ることができるこの欄は、まさに「宝の山」
何度読んでも、新しい発見があります。


題材にできそうな方言が見つかった後は、簡単な調査をしてみます。
出身や年齢の違う何人かの校閲部員に質問してみたり、先行研究を読んでみたり。
そんなこんなで題材が決まるのは、大抵記事が掲載される3、4カ月前のことです。


最大の難所


題材が決まれば本格的な事前調査です。
9県の方言の詳細や語源、歴史などを調べます。
参考にするのは書籍論文、言葉が登場している作品、そして時には過去の新聞記事も。
使えるものは全て使って、できる限り調べています。

ほぉ~げんワード最大の難所はこの段階。
というのも先行研究が見つかりづらいのです。

方言調査の多くは「全国的」か「局所的」です。
方言調査地図に代表されるような、日本地図を広く使って結果を提示できるほどに広い全国規模のものであったり、それとは正反対に、ある自治体の中の一地域に限定した局地的なものであったり。

こういったものはもちろん参考になりますが、前者だと大抵9県内での違いがないことが多く、後者だと今度は細かすぎて県や市などの大きさになることが少ないのです。

またこの調査が学術研究のように数年かけて行うようなものであれば、後者のような資料をこまごまと集め参考にしてもよいのですが、あくまでも新聞記事の一企画であるため、調査に時間を多く割くことはできません。

そのため参考資料を探し、記事の方向性とそれに必要な資料を選ぶこの段階が、一番の難所になります。
難しいと同時に新しい発見も多いので、実は楽しんで作業しています。

アンケートの項目は関係各所との調整が必要なため、この段階のできるだけ早いうちに完成させています。

これまでに使った資料

執筆開始


事前調査と同時に始めるのは本文の執筆です。
ほぉ~げんワードに必要な本文は2種類
一つは紙面用、もう一つはウェブ公開用です。
大別すると紙面用はあらすじ、ウェブ用は詳報となります。
ウェブには紙面用も掲載するので、内容や文章ができる限り被らないように配慮しています。

同時に書き始める理由の一つには、アンケート後から掲載前の間は集計に注力していることが挙げられます。
事前に書ける分はできるだけ書いておき、結果や自由回答を「生の声」としてしっかりとお届けできるように、という配分です。
事前に調べているとはいえ、全て想定通りにいくわけではありません。
どこまでどれだけ書いておくのか、その塩梅は難しいところです。


アンケート終了、そして掲載


無事にアンケートが終われば集計です。
アンケート終了から記事掲載まで今は約1カ月
長い準備期間があるようにみえますが、実は全然ありません。

アンケートの回答は5000~1万件程度集まります。
ウェブには自由記述欄の代表的な回答を抜粋し掲載していますが、どれも掲載したくなるようなエピソードばかりで、なかなか絞り込めません。
また全ての回答に目を通しているため、なかなかタイトなスケジュールになってしまうのです。
大抵回答の集計は、普段ほぉ~ワードを執筆しているメンバーにも協力をお願いしています。

そして結果をもとに表やグラフ、イラストを発注し、本文にも結果の部分や追加したい内容を追加で書き入れて下書きを作っていきます。
下書きができた後には、ほぉ~ワードの執筆メンバーに意見や感想を募りますが、さすがは校閲部員、的確な指摘や意見には記者として脱帽する限りです。

このような経緯をたどり、紙面掲載日、ウェブ公開日を迎えます。
読者からの反響はもちろん、誤字脱字、事実関係など率直に言って不安な部分は多くあります。
だからこそ感想が届いたときにはとても感慨深く、また次も喜ばれるような記事をお届けしたいと改めて思います。

その後


掲載後は自由記述欄をもう一度ゆっくりと見直しています。
最初に戻りますが、次回の方言調査のヒントを探すためです。
こうしてほぉ~げんワードは次に続きます。

ほぉ~げんワードの執筆の過程に、目新しいことは特にないと思います。
しかし地道な作業の中にこそ記事執筆の醍醐味があるのだと、いち記者として感じます。
そして普段読者と関わることが少ない校閲記者にとっては、対面ではないながらも、読者との距離を縮められると感じる貴重な機会だとも感じています。

9県の人全てに興味を持ってもらえる調査を継続的に行うのは簡単ではありませんが、その分やりがいは多くあります。
次回もお楽しみに!



中日新聞ポッドキャスト「あしたのたね」にて、ほぉ~げんワードについて詳しくお話しました。
全3回ですので、興味があればぜひ上のリンクからご視聴ください!

また、ほぉ~ワード誕生の経緯は下のリンクから読めます。


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