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009「最果ての季節」飛び込んできた光景に、思わず吐き気がした。

 四時が柁夫を連れて出て行ってしまった朝、わたしと都子さんはその事実にしばらく気がつかなかった。四時も柁夫も、大抵昼近くまで寝ていることが多く、午前の慌ただしさを過ぎた頃になってようやく、顔をあわせることが常だった。
 その日は、二人とも昼食の席に姿を現さなかった。わたしも都子さんも、別段気にもとめなかった。その程度のことは、いままでにだって幾度となくあったことだった。けれども、その日に限ってわたしの勘は悪い方へ悪い方へとばかり想像をふくらませた。

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1,664字
学生時代にとある公募で一次審査だけ通過した小説の再掲。 まさかのデータを紛失してしまい、Kindle用に一言一句打ち直している……

❏掲載誌:『役にたたないものは愛するしかない』 (https://koto-nrzk.booth.pm/items/5197550) ❏…

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