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フランス語翻訳で使っている辞書とその付き合い方

Xで翻訳者の辞書との付き合い方についての投稿があった。

これ、翻訳家としては当たり前のことじゃないかと思っている。でも、ライターの自分は、果たしてそこまで日本語にこだわって、日本語の辞書を引いていたか?と問われると、ほとんどしていなかったように思う。

この違いはなんだろう?

Xの投稿を見て、あらためて考えてみたくなった。
というわけで、ここではフランス語翻訳家としての目線で辞書をどのように使っているかを話してみたいと思う。あくまでも辞書との付き合い方は我流なので、参考になるかは不明だけど。

フランス語翻訳家の私が持っている辞書

最近は、あまり翻訳の仕事をしていないので、手放してしまった辞書はかなりある。
そんな私でもいまだに大事に持っている辞書(事典も含む)がいくつかあるので紹介していく。

①『ロベール仏和大辞典』

値段を見たら、ビックリするかもしれないけれど、それだけの価値がある辞書だと思う。フランス語翻訳家で持っていない人はいないんじゃないか?というくらい使い勝手がよい。
ただ出版から35年以上経っているので、インターネット用語や最新の流行り言葉などは掲載されていない。とはいえ、そういった単語はネットで検索すればわかるのでOK。

②『Le  Petit Robert de la langue française』

よく使う。というか、一番よく使う仏仏辞典。フランス留学時代に購入したんだけど、古くても使い勝手がよい。言葉のニュアンスを知りたいときに大いに役立つ。そろそろ最新版に買い替えてもよいかなぁ。

③フランス文法事典

私が持っている事典に「新」はつかない。けれど、中身は大きく変わらないと思う。当時の定価で3,500円。
ネイティブではないので、どうしても文法で迷うときがある。受け取り方しだいで文章のニュアンスが変わってしまうと、翻訳にも影響が出てしまう。そんなときに役立つ一冊。

④『ロワイヤル仏和中辞典』

この辞書、初版は1985年で、重版が1996年。私は1996年の重版を持っている。実は、大学の教授に頼まれて、重版の際にこの辞書の校正をする仕事(学生アルバイトだけど)をしたので、非常に思い入れがある辞書なのだ。
内容もとてもいい。
翻訳というよりは普段使いに最適の一冊。

⑤『Dictionnaire de Latin』

フランス語は、そもそもラテン語が変化した言語。なので、小説にはたまにラテン語が使われていることもある。ラテン語そのものの意味や語源を知りたいときに使う。使用頻度は低め。
学生時代に1年間ラテン語を履修していたので、ラテン語を少しずつ学びたいというのもあって所有している。

⑤その他
もう手放してしまったものもあるけど、フランス料理事典とかギリシア神話の用語事典とか映画事典とか…とにかく何かしらの翻訳依頼がくると、専門用語がわかる辞書を買いがち。
そういえば、使用頻度は低めだけど仏英辞典も持っている。

ケチっていたら知識はついてこない

辞書は高額である。だからといってケチケチしていても仕方ないので、辞書を買うときは値段を見ない。

そんな私だったのに、整理収納アドバイザーになって、モノを減らすことばかり考えていたときに、辞書をかなり手放した。これについては後悔しかない。

映画のブログを書くようになり、このnoteに書いたときよりも一層後悔の念が強くなっている…

もう二度と手に入れることのできない貴重な資料や辞書たち。たらればといっても仕方ないけど、もしタイムマシンがあったら、この時期に戻りたい。

とにかく私が言いたいこと。

書く仕事をするなら辞書にはお金をいくらかけてもいい!
できれば電子でなく紙!

スペースを圧迫するけど、気にしてはいけない。知識の泉に溺れるくらいでちょうどいい。

辞書は単語の意味を見るものではない

私が辞書で調べ物をするとき、もちろん初めて出合った単語ならば意味から見ていくこともあるけれども、そうでない単語を調べるとき、ぶっちゃけ意味は見ない。

辞書なのに、じゃあ何を見るの???

と思うかもしれないけど、辞書には意味以外に載ってるものがあるでしょう?
あれよ、あれ。

あれとは…? そう、用例

この用例がめっちゃ大事なの。
用例を見ると、自分が調べていた単語が文章のなかでどのような意味を持つのかがわかるの。
単語の意味だけ見ても、とうてい知ることができない、その単語の本質が見えてくる。

仏和も仏仏も辞書は用例が命。
用例の良し悪し、合う合わないで辞書を選んでもいいくらい、用例は大切だと思っている。

残念ながら、私の知る限り電子辞書やネット上の辞典にいい用例は載っていない。だから紙の辞書のほうがおすすめ。

あと、辞書によって用例に特徴があるので、そこもよく見て選んでほしい。
たとえば新スタンダード仏和辞典の用例は、先に紹介したロワイヤル仏和中辞典に比べて用例が古典的。だから、仏文科の学生にはロワイヤルよりもスタンダードをおすすめしたい。

すでに知っている単語であっても辞書を引く。そして、いくつも用例を見る。

そうすると、文章にもっとも合うと思える言葉が浮かんでくるのだ。だから、翻訳するときに辞書に載っている意味をそのまま使うことはあまりない。

辞書は書き手にとって財産である

なんでもネットで検索すれば答えが出てくる世の中になった。
けれども翻訳の世界はもちろん、書くことを仕事にしている世界では、辞書は一生ものの財産ではないかと思う。

だから辞書を買うお金に糸目はつけない。買えば買っただけのものが返ってくる。
翻訳の仕事を始めてから25年以上経つが、この考えは今も昔も変わらない。

辞書の持ち方、付き合い方は人それぞれだとは思う。
ただ言葉にこだわるなら、辞書にもこだわってみてほしい。

こんなことを言っている割に、今回の投稿を見るまで、ライターとして文章を書くときに辞書を引かないことが多いと気づいていなかった…
なので今後は、記事やブログを執筆するときにも「いちおう辞書を引いてみる」をやってみたいと思う。

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