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24 明文化されたリーダーの行動規範

本noteは連載形式です。全部で約100回の予定となります。本連載「想定外を克服する『究極の状況判断力』」のリンクは最下部に記載してあります。

優れたリーダーとしての行動にとって重要な要素である「指揮」と「統御」。このうち「指揮」の要領については、自衛隊仕込みのプロセスが原点となる。

24 明文化されたリーダーの行動規範

リーダー、そしてスタッフが想定外の状況に対峙していく為の共通の手法として、自衛隊には「指揮運用綱要」と呼ばれるものが存在する。陸上、海上、航空自衛隊で編さん形態は少しずつ異なり、それぞれの戦い方の特性に応じ、また利用する状況や立場の違いに応じてチューニングされれている。しかし、原則的にはほぼ同じプロトコルが記載されている。

この「指揮運用綱要」は自衛隊の正式なテキストに指定されている。自衛隊で発行されるすべての図書や文書の形態は内部の規則によって定められ、目的や位置付けが定義されている。このテキストは「教範」と呼ばれ、教育体系の最上位の位置付けに該当する。つまり、多くの戦いのための手順書やテキストの最上流に位置し、現在の全ての幹部自衛官の行動規範となるものだ。

そこには、リーダーのみならず、スタッフを含めたチームとしての活動のあり方が記されている。ここでいうスタッフは幕僚と呼ばれるカテゴリの幹部自衛官を対象としおり、従ってこの図書自体は、いわばリーダー(幹部自衛官)たちの日々の任務の行動規範をであると言える。

この指揮運用綱要には、これまで勝てるサバイバル・サイクルとして紹介した指揮実行の五段階や、究極の状況判断としてご紹介している「状況判断」や「決心」のプロセスが規定されている。それのみならず、部下との関係でリーダーがどのような心構えを持つべきか、という原則論や、スタッフ側から見たリーダーとの関係で気をつけるべき事などが端的に記されている。

そして、それぞれの説明にとどまることなく、各自衛隊が作戦を実施する上で、どのように組織を使っていくのかということについて、例えば情報の整理の仕方や会議の運営方法までの細かな作業の考え方までも記されている。この図書は秘密文書ではないものの部内に限って利用されるものである事から一般には公開されておらず、ここで個別具体的にご紹介することは様々な点を考慮して差し控える。

しかし、内容は一般的な幹部自衛官の素養として反射神経的に刷り込まれ、現在も各幹部自衛官の日々の任務に役立てられている。そしてそのエッセンスは、ビジネスにおいても大いに役立つ内容であり、特に相手(敵方)がどのような行動に出てくるか分からない、周りの環境の変化が急激で精緻な分析が追いつかない、状況を認識したと思っても刻々と変化してしまい、なかなか落ち着かない、といった際の行動規範としての利用価値が高い

もちろん、ビジネスだけでなく、例えば父親・母親がご家族を危険な状況から守るときや、地震・豪雨災害時やコロナ対応において、自治体や学校の職員のパフォーマンスを向上させることにも大いに活用できる。大切なことは、そう言った基本的なエッセンスがプロセスとしてより多くの人々の間で共通化され、共通認識を持って的確なチームワークを作り上げて対処していくことである。

一見難しいことに思えるかもしれないが、プロセス自体は汎用性があり、トレーニングさえすれば比較的簡単に身につけることができる。重要なことは目的に向かって人を動かす為の共通認識を持つ事であり、そのためにルールとして定め、それを使ってトレーニングし続けることである。

実は、米軍においても「ドクトリン」と呼ばれる一般公開されている文書において、同じような行動規範・プロセスが規定されている。

>次回:米軍流リーダーとスタッフの掟

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