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25 米軍流リーダーとスタッフの掟

本noteは連載形式です。全部で約100回の予定となります。本連載「想定外を克服する『究極の状況判断力』」のリンクは最下部に記載してあります。

自衛隊には「指揮運用綱要」と呼ばれるものが存在し、リーダーとスタッフの関係が規定されている。軍隊での状況判断、決定、そして計画は、その行動が生命を賭けるに値するものかが問われる厳しいものだ。世界最強の米軍でも、それは同じである。

25 米軍流リーダーとスタッフの掟

Joint Publication 5-0 Joint Planning

世界最強と言われる米軍。総勢140万人、年間数千億ドルの予算を使用する、言わずと知れた世界最大にして最強の組織である。彼らの集団としての行動をまとめるのは、相当に大変なことだということは容易に想像がつく。

その巨大組織の統制をとるために、ドクトリンと呼ばれる文書体系を作り上げている。しかもなんと、普通にWeb上で閲覧可能である。

正式にはJoint Doctrine Publications と呼称され、米軍全体の行動規範体系を形作るものとなっている。全部で6つのカテゴリがあり、具体的には1-0: Personnel Series、2-0: Intelligence Series、3-0: Operations Series、4-0: Logistics Series、5-0: Planning Series、6-0: Communications System Seriesで構成される。

統合参謀本部のWebサイトでは以下の概要が記載されている。

Joint doctrine presents fundamental principles that guide the employment of US military forces in coordinated and integrated action toward a common objective. (統合ドクトリンは、アメリカ軍に従事する者に対し、共通の目的に向かって調整され、統合された行動を行うにあたっての基本原則を示すものである。)

自衛隊の場合と同じく、米軍でも同様の考え方で大部隊を動かすための原則を設定している。自衛隊が米軍から取り入れたと思う方もおられるかと思うが、実態としては、自衛隊におけるドクトリン体系の導入は道半ばであり、結果的に、そして必然としてドクトリンと非常に似たものが使用されていると考えられる。

「究極の状況判断力」は、それらの行動規範の中からエッセンスを抜き出して要約したものとなる。米軍のドクトリンの場合は、5-0: Planning Seriesに該当する。

詳細は応用編にて解説することになるが、上図の左側には、縦軸としてCommander Action(指揮官:リーダーの行動)、Staff Action and Products(スタッフの行動と生成物)、Joint Planning Process(統合計画プロセス)が記述されていて、それぞれの行動の相関関係が整理されている。

その上で、真ん中の太い緑矢印を見て頂くと、「COA」 と書かれたものを中心として計画が形となっていくプロセスが描かれている。COAとはCourse Of Action、日本語では「行動方針」と訳される。リーダーとスタッフがそれぞれ役割分担して行動方針を立案、評価し、最後にリーダーの決心(Commmander's approval)によって計画が決定し、実行されていく仕組みだ。

図中の四角の要素一つ一つがリーダー、スタッフの役割として整理され、チームとして不測の事態に対応することが「基本原則」レベルで描かれている。Joint Doctrine Publicationの”ジョイント”は、単なる統合という意味でなく、陸軍、海軍、空軍、その他全ての米軍内のユニットに適応されることを意味する。

このように、想定外の事態を前提として組織を行動させる場合、いわば思想統一を周到に準備し、訓練し、そして運用することが必須の条件となる。想定外の事態に対応することを常とする軍隊では、こう言った努力が脈々と行われている。

次回からは、いよいよ本格的に「究極の状況判断力」の中身を説明していく。本導入編では、究極の状況判断というものが一体何なのか、どのような価値がありそうか、ビジネスへの適用をいかに想像するかについて触れてきたが、今後はより具体的かつ専門的な内容に踏み込み、本当のプロが行っている究極の状況判断のためのプロセスを解説していく。

>次回:PDCAでは絶対に越えられない壁

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マガジン:想定外を克服する「究極の状況判断力」





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