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#23 好きが感謝に昇華した話⑨【想い】

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chapter18 電子版文通


「LINE」

それは気軽にいつでもどこでもコミュニケーションがとれる画期的なツールである

今やそれを使っていない若者はいない程世の中に浸透している

だが近年では友達の今を共有するストーリーズから会話を広げることのできるInstagramがコミュニケーションアプリの主流になりつつあるらしい

LINEは事務的なもので仕方なく入れている感じ

年をとったなって思う。きっと数年後にはLINEなんて令和の若者から忘れ去られる日が来るのだろう

日々変わりゆくコミュニケーションの形

昔は遠方の人に言葉を届けたければ電話、もっと前は手紙しかなかった

その時代はたくさんお話したければ文通する

もちろん返事が来るのは時間がかかるが、むしろその時間がウキウキする


この話の中で私はLINEのことを電子版文通と表現している

それはまるで今と昔を混ぜたような不思議な言葉だ

10月から翌年1月にかけて彼女とLINEそのものについて会話していたのでお話に戻る前に、少し振り返りたいと思う


***


彼女はLINEを溜めてしまう癖があるらしい

そうぼやいていた

私と違って彼女は大学生。様々な方面からの着信でトーク欄は常に新着メッセージで溢れている

私が「なんだか賑やかで楽しそう!」とつぶやくと

確かに賑やかだね笑
LINEの着信があったのは覚えてるんだけど、どーやって返したら語弊とか誤解が生まれんかを悩みよったら時間もかかってどんどんたまってくのよね。通知みて頭の中で返信してそれで気が済んでしまうとこあるけ直したい。

そして、

毎回1か月遅れの返信でほんとにごめんなさいです。わたし時間の使い方下手くそなんかなって思うくらいに忙しなく日々が過ぎていきます笑

別に謝ることでもないのに

相手は大学生なのだから正直こんなのと絡む時間はあるわけない

だから私は秋口から返信の最初は「忙しいのに返信ありがとう」から始めている

それに私は1か月返信がこないだけで無視されたなんて思わない。私には無視されたなんて概念すら消え去るほどに、ただどこかであの人の返信を待っていたからだ

「LINEだってさ、郵便物と同じように重要なメールには"重要!"ってタグでもつけて送信出来たらすぐに返さなければならないものとそうではないものがわかりやすくていいのにね」

そんな機能が実装された暁には本当に一生あの人から返信が来ることはないなって苦笑いしながらも、溜まりゆくLINEを見てうんざりしているであろう彼女にこんな機能を提案してみる

たしかにそれは便利かもしれん

意外とウケたようだ

「自分も、沢山人からLINEが来るわけではないけど、誤解を生まないように、返信にはすごく気をつけるようにしてる。グループで何か話してる時に意思疎通ができないって投げ出して電話したこともあるな。なんだかLINEの無機質なテキストじゃ気持ちが半分も伝えられていない気がして。」

それすんごいわかる。送る前とかめちゃくちゃ悩むし笑
電話するのはあるあるじゃね

やっぱり彼女もそうなんだ

「自分は昔から本当に気持ちを伝えたいときは手紙にするようにしてるんだ。」

手紙をやりとりできる友達っていいね。やっぱり言葉って気持ちがのってなんぼよね

遠く離れている人との普段のやりとりはLINEで

要件が長いときは電話で

気持ちをのせたいときは手紙で

そしてやはり一番は顔を合わせて話すことだろう

言葉って気持ちがのってなんぼなんだから

まあ色々拗らせてLINEで文通まがいのことをしている人がここにいますが

でも私も面と向かってあの人と話したい

電子版文通で伝えきれない想いがたくさんあるから

この1年の気持ちを集めた手紙も渡したい

そして一番の願いはただ一言

「ありがとう」

が言いたい、自らの口で

1月、共通テストを終えた私はその思いが強くなっていることに気づく

2月の頭に”直接話したい人”から恐らく二次試験前最後のLINEが届いていた

二次試験対策でとても時間をかけて返信できる状況ではなかったので、そのメッセージに

「ごめん今は忙しくてちゃんと返信できない!でも落ち着いたら必ずお返事するから!!!」

彼女に送る最後のLINEは二次試験を終えてから

そう固く決めていたから





chapter19 願い


はじめ

その合図とともに一斉にペンを握って解答用紙に受験番号を記入し問題をめくる

既視感のある光景が広がる

これが2度目の試験だからだ

最初の試験は数学。でも隣にあの背が高い、生意気でちっとも数学できなかったくせに舞い上がってた男はいない

「去年のお前とは数段違うで」

そう空気に向かって無音でどなりながら受験番号を書く

そこから先の記憶は少しだけある

1つ驚いたことがあったからだ


進研ゼミで出たところだ!

なーんて幻想だ

去年はそう思ったがなんと大問4つのうちの1つが予備校のテキスト問題の下位互換だったのだ

これはでかい

このために予備校に通ったのかもしれないと思うくらいだ

正直他の問題は半分くらいといったところだが受験の二次なんて半分とれれば十分だし大問1つは完璧なのだから文句なしだ

ラスボスの第一形態を倒した!

さあ次は英語、できなきゃあの先生に顔向けできないぞ

そう意気込んでお弁当にがっつく

去年は落ち込んで寝てた4時間近い空き時間は広い広い大学を散歩してつぶした

緑豊かなキャンパスはとても受験会場とは思えないような景色でとてもリラックスできた

控室に戻ると黙々と勉強している人が大勢いる

(まあがんばってくれ)

なんて偉そうなセリフを心の中で言いながら人目につかない端っこの席に座りあの2人が作ってくれた応援ビデオメッセージを見る

本番前は知識を詰め込むことよりも精神を安定させる

この動画は今の自分にとって一番の精神安定剤だった

動画を何回もループした後ぐーたらしてたらいつの間にか試験は始まった

問題は去年より易しくてすごくほっとした

第二形態のラスボスは弱くて拍子抜けするものだった


試験後あの男が迎えに来てくれた

わざわざ電車で1時間もかけて

改札出て一緒に電車に乗ってまたもと来た道を引き返すだけなのに、来てくれた

あのめんどくさがりが重い腰を上げてくれたみたい

受験生の帰宅ラッシュで駅は人で溢れかえっていた

こんな大勢の高校生がみんな今日の試験問題の話をしていて、「これ難しすぎ」とか「解答速報はまだか」とか電車の中が宴会騒ぎみたいになっている光景は今日しかみられないだろう

もちろん、私たち2人もその仲間なのだが

隣に偉そうに座る彼は1人現役大学生

「ふん、生意気な高校生どもが」

と見下すのがなんとも滑稽である

私が今日の試験問題を見せてあげると

「そんなん知らん」

と苦笑する

「お前、これで落ちたら許さんからな」

そのとき自信ありげな私に向かって釘をさすように彼は言った

「ったくなんでこんなとこまで駆り出されにゃいけんのんや」

スマホをいじりながらぶつぶつ文句を言う彼だがふと

「自信あるならよかった、信じてるぞ」

ってつぶやいて峠を下る電車の車窓を眺めていた


***


最近のホテルはネット予約ができる

スマホで必要事項をフォームに入力し、タップするだけで素早く簡単に部屋を抑えることができる

なんて楽な世の中だ

でも、人と会う予約はそうはいかない

二次試験が終わった翌朝、ベッドから起き上がらず天井とにらめっこしながら、私はとてもとても大事で成功確率は限りなく低い「予約」をしようとしていた

彼女の返信がくるのはおおよそ1か月~2か月の間

前回の返信は2月上旬で私はそのとき一旦待ってねLINEをしている

今日は2/26、合格発表は3/8、もし合格していた場合おそらく新学期は4月からということになりそうだ

つまり、今LINEすればもしかしたら春休み期間中を狙えるのではないか

そんな淡い期待を寄せていた

ただし会話のキャッチボールに1か月以上要するから要件を全て言って1回で完結させなくてはならない

私が志望校合格の次に叶えたい願い、それはあの人に一言「ありがとう」を伝えること

もちろん、それは合格してからじゃないとできない

だから予約という形になってしまう

大学付近でよくやってる合格前に部屋を抑えておくサービスみたいなものだ

まあ、上手くいくとは思ってはいないのだが

私はベッドの上で今までの手帳を見返しながら、会えたルートと会えなかったルートの大きく2つに分けてどうするか考えた

そしてこれから送るLINEの内容も、秋ごろから今まで少しずつメモしてきたパズルのピースを組み合わせて、しつこくなく、いたくなく、ポジティブに、返事しやすい最適な文章を考えた

結果、やはりLINEする内容の軸は「感謝」にしようと思った

どうしても直接感謝の気持ちを伝えたいことがある

まだ結果が分からない以上、ここまでしか言えなかった

そしてそのLINEを送るには1日じゃ全然足りないくらいの時間を要し、結果送信ボタンを押せたのは翌日だった


***


3/8までの合格発表までの間、後期の小論文対策と並行してついにあの人への手紙の執筆を始めた

手帳を見返しながら、これまでの膨大な想いを整理して伝えたいことを絞ることはかなり難しく、ペンを握るまでに相当時間がかかった

一応50枚入りの便箋を買っておいたが、全然足りないのではと心配になってくる

3/8までは遊びにいける状況でもないので本当にこれしかやることがなかった

たぶん、人生で一番文章を書いた時間だと思う

そして、手紙は未完のまま、3/8を迎えた


***


0時間睡眠、もはや睡眠などどうでもいい

どうでもいいからはやく正午になれ

朝5時、一応ベッドにはいるが体はずっと落ち着きがない

もうこの生殺しみたいな時間は勘弁してくれ

早く時間よ過ぎろ

それが今の願い

流石に今は"予約メールを送った人”のことなど考える心の余裕もなく

ただ目を開けてうなされているだけだった

それでも刻々と時間は過ぎていき、ついに発表10分前まできた

その場にいる母親も緊張している

リビングルームにパソコンを準備していつでも見られる状態にした

発表5分前

大学のサイトを開く

母親が横に座り準備完了

そして12:00

PDFファイルを開く

誤ってすぐ見てしまわないよう開いた瞬間ファイルを拡大した

1つの受験番号しか画面で見えないくらいに

それからゆっくりゆっくり下にマウスで▽をクリックしながらスクロールしていく

自分の前の受験番号があったときに、固まった

そのまま30分は固まった

でも、見なくちゃ

運命には抗えないよね、なんてくさいセリフを思い浮かべて▽を一回クリックした

___次の数字が上半分だけ見えた


その瞬間隣にいた母親は両耳をふさぎ、花瓶の中の水は揺れ、外の電線に止まっていた小鳥たちは羽ばたいた


***


最初に報告したのは試験場まで迎えに来てくれた背高男と、いろいろ相談に乗ってくれた部活の同期女子の3人で作ったグループだった

私が自分で確認した後、自分の受験番号を送ると

あの男は

「残念だったな」

なんて送るから女子の方が

「え、ほんとなの……」

て困惑してたからやめてほしい

まあ数分経てば彼女も確認してその疑いは晴れたのだが

すごくテンションの高い返信が返ってくるのかななんて思ってたけど彼女は意外にも

「おめでとう」

の5文字にまとめていた

その後ひとしきり3人で宴みたいな電話をしてその日は終わる

明日からはまるでRPGゲームを全クリした後の、お世話になった街や村を訪れるイベントが始まるんだろうなって思う

まずはお世話になった人たちに感謝を伝えなくちゃ


そう意気込んでいた翌日、予約可否メールは突然に届くことになる

私の次の願いを叶えるための忘れられない春休みが始まった


第2部「浪人期」 完











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