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平凡な私がホストになった話~後日談~

私は大学4年の夏の間だけ、歌舞伎町のホストクラブで働いていた。この経験から多くのことを学んだので、忘れないうちに文字として残そうと思う。今回はホストを卒業した後の話、色々な店舗に体験入店に行った事と他のホストの姫に会った事について書こうと思う。


体験入店

ホストを辞めてしばらくしてから、私は様々な店舗で体験入店(以下体入)をした。

体験入店をした理由

様々な店舗で体入をした理由は2つある。

一つは、自分が働いた店舗以外のところも見てみたかったからである。というのも、他の店舗を体験することでホスト業界全体について更に知れると思ったからだ。

二つ目は、単純にお金が必要だったからである。当時、長期インターンも行っていたがその収入だけではお金が足りなかった。店舗にもよるが、ホストの体入は時給換算すると大体2500円くらいである。これには何のキャリアもない20代前半男性もニッコリだ。

他の店舗を体験してみて

他の店舗の体入を通して思ったことが3つほどある。

一つは、店舗によって雰囲気が全然違うということだ。
カリスマホストがいたり、ホストの育成に力を入れたり、Youtubeでの動画配信を行っていたりと、店舗の色は様々だった。

二つ目は、私が以前働いていた店舗は相当厳しい環境であったということだ。
以前の給与システムやスケジュールを話すと、体入先のどの店舗でも絶句され、憐みの目を向けられた。そんな目で見ないで。

「そこのグループにいたなら、どの店舗でもやっていけるよ」

と偉い人に言われたこともある。私の働いていたグループはどうやら歌舞伎町では厳しいで有名だったらしい。

三つ目は、売り上げの作り方はどこも大きくは変わらないということだ。沢山のお金を女の子に使ってもらうには結局恋愛感情を利用するしかなく、テレビのカリスマホストの「人間力があれば色恋する必要もない」という言葉は「幻」だった。心の中のIKKOさんも「まぼろし~」と言っていたので間違いない。

他のホストの姫に会った話

他のホストの姫に会うことは「爆弾」と呼ばれ、多額の罰金等の相当のリスクがある。
ホストを辞めた後とはいえ、人のお客様に会ったことがバレたらどんな目に合うかわからない。
そのリスクを冒してでも、私は会った人が一人だけいる。完全に営業妨害だ。

他のホストの姫に会った理由

会った理由は、情が湧いてしまったからである。その方は人当たりも良く、お店で私のことをとても可愛がってくれた。しかし、ヘルプで卓に着く度に辛そうにしており、救いを求めていた。私はそんな彼女を見て、ホストから足を洗わせてあげたいと思ってしまった。

実際に会ってみて

ホストを卒業してすぐに彼女から連絡がきて、実際に会った。彼女は以下の悩みを言っていた。

  • ホストをやめたら付き合うと言われているけど、本当に選ばれるか分からない。

  • 掲示板で担当ホストの姫が色々なことを書いているが、どれが本当か分からない。本当だったら担当のことが信用できない。

  • 束縛が激しくて辛い。職場の飲み会も許してくれない。

ちなみに掲示板には数々の姫が、店には担当本人のお金で来ている。妊娠して中絶させられた。結婚の挨拶で実家に行ったなどの書き込みがあった。悪魔の所業だ。

私は事実を伝えるのが彼女のためだと思い

  • あなたは数いる中の一人のお客さんで、今後選ばれることはない。

  • 掲示板に書かれていることはほとんど事実だと思っていい。

  • 担当に黙って飲み会に行くべき、どんどん周りと関わった方が良い。

と正直に答えた。このあと馬鹿を見ることになるとも知らずに。

彼女の決断

彼女はしばらく考えた後、こう言った。

「他にお金使うことないし、他に好きな人もいないし、とりあえず担当がホストを辞めるまでは通う」

私は耳を疑った。あれ。もしかして、こっちの声が聞こえてないのかな。
彼女は続けて

「今までこんな好きになった人もいない」

と言った。
お手上げである。私には救えない。他人を救おうなんて私には烏滸がましかったのだ。もう帰りたい。
そんな気持ちを押し殺して

「ホストは本来楽しむところなのに、自分が辛い思いするのはおかしい。せめて飲み会には行ってくれ」

と歯を食いしばって言った。せっかく歯列矯正して整えた歯が、再びずれるくらい歯を食いしばったと思う。

彼女の変心に期待して今後多くの人と関わるよう促したが、割り切った気持ちでホストに通う分には問題ないか。多分。
そう思うと、湧いてたはずの情も一気に薄くなった。

さいごに

体験入店や他のホストの姫と会うことで、さらにホスト業界の解像度は上がったと思う。
特に他のホストの姫と話したことは大きな経験だった。

ホストは姫をコントロールしやすくするため、周りとの関係を絶たせ、環境を固定しようとする。逆に言えば、思想や価値観というものは、環境から生まれる。

環境から思想が生まれる例として、私はホスト現役のときは「これは必要な職業だ」と思っていたし、辞めて一年以上経った今では、ホストは恋愛感情を利用したカルト宗教そのものであるため「業界ごと消えて失くなった方がいい」と思うようになった。環境って怖い。

私は近いうちに新しい環境に身を置くが、そこで自分の価値観や思想がどのように変化するか楽しみだ。

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