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職人仲間も巻き込んで世界へ!日吉屋の越境EC元年【前篇】

日吉屋では2022年から越境ECに取り組み始めました。(サイトはこちら)まだアップデートの必要なところは多々ありますが、日本語のほか英語・中国語に対応しており、世界中のどこからでも注文購入が可能という仕組みはできあがっています。

このサイトの特長は、日吉屋の和傘やデザイン照明「古都里-KOTORI-」だけでなく、これまでに弊社が商品開発や販路開拓をお手伝いしたメーカーのオリジナル製品も購入できる点。いわば日吉屋の職人である私が、職人仲間を巻き込んで作り上げる、新しい日本のデザイン工芸のショーケースのようなものです。

これまで長らく、自社で越境ECを行うことに積極的でなかった弊社が、なぜここにきて新たなチャレンジを始めたのか。今日はそんなことについて書いてみたいと思っています。

インターネット黎明期の波に乗った90年代

日吉屋が最初に国内向けネット通販に乗り出したのは、インターネット黎明期の1997年頃ですから、伝統工芸の世界ではずいぶん早い方だったと思います。その頃の私は、まだ日吉屋には入社しておらず、和歌山県新宮市の市役所職員でした。結婚した妻の実家が日吉屋であったため、廃業寸前に追い込まれている店の内情を知っていた私は、なんとかできないかと思い、ネット通販サイトを立ち上げることを思いついたのです。

幸いなことに、私の実弟が大学でITを学び、学生ベンチャーとしてウェブ制作を始めていたので、彼に協力してもらってサイトを開設。すると、サイトがオープンしたその月に、何の宣伝もしていないにも関わらず、見ず知らずの東京の方から番傘の注文が入ったのです。

日本のどこかに、和傘という伝統工芸品を探している人がいて、そんな人たちとネットを介して出会える、という事実に、私たちはどれほど勇気づけられたでしょう。その後もポツポツとではありますが、ネット経由での注文は増えていきました。

当時、日吉屋にはパソコンを扱える人がいなかったため、私たち夫婦が夜に受注をチェックして、日吉屋にファックスを送る、という日々がしばらく続きました。

そして私はその後、安定した公務員の立場を捨てて、日吉屋で和傘職人として生きていくことを決めます。1990年代にはわずか100万円台に落ち込んでいた年商は、ネット通販のおかげで、私が入社する2003年頃には1000万台にまで回復していました。

D2Cへ、潮目が変わった2020年

こんなふうに約25年前からインターネットの恩恵を受けてきた日吉屋ですが、海外向けの発信となると、英語版のウェブサイトを持っていたぐらい。2008年以降、和傘の構造を生かしたデザイン照明「古都里-KOTORI-」で、海外にも販路を広げてきましたが、商流としては、海外展示会でディストリビューター(販売代理店)やリテイラー(小売店)のバイヤーと出会い、彼らに商品を卸して現地で販売してもらう、というスタイル一択でした。

2008年以降、欧州や北米の展示会に積極的に出展し、販路開拓の足がかりを掴みました。

越境ECに消極的だった理由としては、決済や税関を含む輸出手続きが煩雑で不安定であり、お客様の手元にいくらでお届けできるか発送時にわからないなど、不確定要素が多かったことが挙げられます。さらに言うなら、リアルの売り上げが順調に成長しており、オンライン施策にさほど力を入れる必要がなかったという事実もありました。

そんな潮目が大きく変わったと感じたのが2020年です。コロナ禍の影響は言わずもがなですが、購買を巡る環境・技術の変化にも背中を押されました。近頃、クレジットカード以外にPaypalやShop pay、GooglePayといった選択肢が増えて、グローバル決済が身近になったのは皆さんもご存じの通り。D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー:消費者直接取引)がグッと身近になったのです。

今では、弊社サイトにアクセスした海外のお客様は、表示されている商品価格に送料を上乗せした金額で支払いを済ませるだけ。送料(お客様負担)は、お客様の居住しているエリアを入力すれば、発送する商品重量に基づいてシステムが自動計算し加算してくれます。あとはご自宅に弊社からの荷物が届くのを待つばかり(国によっては着払いで関税が発生することもありますが、それは弊社の管轄外になります)。輸入業者やバイヤーでない個人客が、まるで国内のECサイトでお買い物をするのと変わらない手間で、日吉屋の商品を手にできるのです。

D2Cで大幅に上がる利益率

こういったD2Cが可能になるということは、利益率が大幅にアップすることを意味します。

2018年に上梓した自著「伝統の技を世界で売る方法」では、海外販路開拓の心得として「卸値は海外上代の1/4~1/2に設定せよ」という鉄則について詳しく書きました。それぐらい抑えた卸値で製造出荷できないと、中間流通コストや関税コストが上乗せされる海外市場ではペイしないというのがこれまでのセオリーで、弊社の支援先企業さまにも常に口を酸っぱくしてお伝えしてきました。

日吉屋では、その厳しいハードルをクリアするために、「古都里-KOTORI-」の骨組み製造に型を取り入れて作業効率化するなど工夫をしてきました。その努力の甲斐あってリーンなコストで製造できるようになっている今、これまで中間流通業者に支払っていたコストが不要になるD2Cでは、自社でサイトを運営し、受注~個口発送を行う手間を考えても十分お釣りがきます。メーカー側が売りやすい上代を設定できる自由度が増したとも言えます。

世界中にいる、まだ出会えていない顧客とつながるために。

そんなわけで、日吉屋では2020年から1年半以上かけて越境ECサイトの準備を進めてきました。AmazonやeBayなどのプラットフォームを使わず自社サイトで越境ECを行おうと思ったのには、いくつか理由があります。

まずひとつは、自社内で多言語対応が可能であること。弊社スタッフは基本的に全員が英語を使えますし、フランス人と台湾人のスタッフもいて、日・英・仏・中の4言語は不自由がない状態です。

2つめの理由としては、自社製品だけでなく、他のさまざまな作り手による現代日本のデザイン工芸を紹介したいという思いがあったことです。職人である私が日本各地の職人とつながり、製品だけでなく、その背後にあるものづくりのストーリーも一緒に届けられるようなポータルサイトにしたいというのが私のイメージでした。この取り組みについてはまだ道半ばですが、職人仕事の魅力が海外の方にも伝わるようなYouTube動画や読みものなどのコンテンツを、これから随時充実させていくつもりです。

3つめの理由としては、まだ出会えていない潜在顧客とつながるためのデジタルマーケティング施策を自社で行いたいということです。これは上に書いたコンテンツ施策とも連動しており、詳しくはこの記事の後篇で書きたいと思います。

25年前に初めて和傘のネット通販に乗り出した時にも感じたことですが、広い世界のどこかに、私たちの手がける工芸品を求めている顧客層は確かに存在します。あとはその人たちにどうやってリーチするかです。まだまだ弊社でも実験中ですが、時代の波に乗るためには果敢なトライアル&エラーが欠かせません。次号noteでも、その現在進行形の思考をシェアしていきますので、どうぞお楽しみに。

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