起業のダークサイド。起業家が直面する9つの不都合な真実
資金調達のリリースを出したり、メディアに取り上げられたり、SNSのタイムラインを見ていると華々しく見える起業家。しかし、その裏側もバラ色。なんてことはなく、辛いことや大変なことに向き合う毎日だ。
マネジメントについての自己啓発書を読むたびに、私は「なるほど。しかし、本当に難しいのはそこじゃないんだ」と感じ続けてきた。本当に難しいのは、大きく大胆な目標を設定することではない。本当に難しいのは、大きな目標を達成しそこなったときに社員をレイオフすることだ。本当に難しいのは、優秀な人々を採用することではない。本当に難しいのは、その優秀な人々が既得権にあぐらをかいて、不当な要求をし始めたときに対処することだ。本当に難しいのは、そうして組織をデザインした会社で人々を意思疎通させることだ。本当に難しいのは、大きく夢見ることではない。その夢が悪夢に変わり、冷や汗を流しながら深夜に目覚めるときが本当につらいのだ。
これは、数年前に話題になった『HARD THINGS』で米国の著名投資家ベン・ホロウィッツが書いた序文。今日はそんな側面から、起業家のダークサイドを紹介したい。
1.苦闘の連続
華やかなソーシャルメディアのタイムラインの裏側では、目標未達/顧客からのクレーム/メンバーとの軋轢/役員との方針の食い違い/株主からのプレッシャー/メンバーとの給与交渉・評価/解雇/競合の大きな動き/資金不足/タスクオーバー/睡眠不足と向き合っている。
2.精神を病みやすい
インテルの伝説的CEO アンディ・グローブは「パラノイアだけが生き残る」といったけど、起業家には精神を病む人がたくさんいる。
アメリカで行われた調査では、米国全体のうつ病と診断されている人が約7%の中で、調査に回答した起業家の30%がうつ病、27%が不安障害だと告白している。
3.巨額の借金を背負いかねない
銀行借入には個人保証がつき、裁判の訴訟が起こったときも取締役以上は個人に支払い義務が生じる。結果として、数億、数十億単位の借金を抱える可能性がある。普通の生活をしてたら背負えないような大金だ。
結果、あまり知られてないけど、起業家は不動産の審査が通りにくく、ローンが組みにくい。「審査の通りやすさは、公務員>上場企業の社員>普通の企業の社員>経営者ですよ」と不動産屋に言われた。
久しぶりに士農工商を思い出したけど、もちろん、身分の一番低い「商」が起業家。
4.週100時間、地獄のように働く
これはテスラのイーロン・マスクの言葉だけど、最初の数年、人によってはその後もずっと、四六時中、仕事漬けの毎日を送ることになる。休日も、仕事のことが頭から離れない人がほとんどだ。EXITでもしない限り、全速力で走り続けることになる。
5.事業よりも人や組織の問題に向き合ってる
KPIを伸ばす方法だったり、セールスやマーケティングの戦略を考えるのは大好きだけど、パフォーマンスの上がらない従業員をどうするかを考えるのが好きな人はほとんどいない。
にもかかわらず、「事業をやっているというより、人や組織の問題に向き合っていることが多い・・」と告白する経営者は多い。
6.従業員に新橋の飲み屋でバカにされる
そして、人や組織を良くしようと一所懸命、ビジョンやミッションを共有し、教育プログラムに投資しても、「うちの経営陣がアホで、ビジョンや戦略がなくて・・」とその辺の飲み屋で従業員に言われる。もっと悪いと、役員陣からも言われる。
7.弱音を吐けないどころか、もはや召使い
従業員に飲み屋でバカにされている状況を知ったり、経営がうまくいかなかったり、辛いときでも、リーダーはみんなに弱音を吐かず、明るく、ポジティブにいることが求められている。
「サーバント・リーダーシップ」なんて言葉があるぐらい、従業員に奉仕することを求められ、本屋に並ぶ、「リーダーが実践している○○のこと」が合計百個ぐらいあるほど、リーダーは心身ともにハイスペックであることが求められている。
8.孤独
「経営者は孤独」と言われるように役員にすら、本音の本音は言えない、という経営者は多い。だから、経営者は経営者同士でつながり、経営者同士でしか話せない話をするのだと思う。
9.全部、経営者のせいだ
人が辞めるのも、売上が伸びないのも、全ては経営者の責任。経営者の認識がその世界(会社や組織)を作っている。会社は社長の器以上に大きくならない、と言うけど、おそらく本当にそうなのだと思う。
他にもたくさんありそうだけど、この9個がぱっと思いつくところ。
もちろん、起業はやめましょう、という話をしたいわけではなく、僕自身はAppleの伝説的CM Think different.の『自分が世界を変えられると本気で信じる人たちこそが本当に世界を変えているのだから』のセリフが大好きで、そうありたいと思ってる。
しかしながら、大変なものは大変だと自覚して、リスクヘッジした方が良いし、社会の仕組みなり、関わる人たちのマインドセットが適切になった方が良いし、その上で、起業する人は起業する、という適切な選択が生まれた方が良いと思っている。
そして、「全部、起業家のせいだ」が真実なのであれば、より良い組織や社会を作っていけるのも、起業家に他ならないのだから、従業員や顧客、パートナー、株主、ひいては社会全体を幸せにできる最高の職業だと思う。
敬愛するナシーム・ニコラス・タレブは「反脆弱性」の中で次のように書いている。
私の夢、そして唯一の解決策は、〝起業記念日”を設けて、こんなメッセージを広めることだ。君たちの大半は失敗し、侮辱され、金を失うだろう。だが、君たちが地球の経済を成長させ、他者を貧困から救うために冒したリスクと犠牲に、われわれは感謝している。君たちこそ反脆さの源なのだ。国家から君たちに感謝の意を表する。
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