マガジンのカバー画像

クランベリー型形態素

16
自分の在り方を探す大学生たちの物語。 今のところ短編集なのでお好きなところからお試しください。
運営しているクリエイター

2019年8月の記事一覧

双眸は逃げられない

双眸は逃げられない

わたしは頭が悪かった。

昔からそうだ。頭も悪ければ要領も悪い。

なにかひとつ取り柄があればいいと優しい両親から愛を注がれてみたものの、なにひとつ花開かないままここまできてしまった。

それでも健康に笑顔で生きられれば素敵なことよ。

慰めの言葉をかけてくれる母の優しい表情に、わたしもこのようになりたいと思っていた。

歯を食いしばって手に血を滲ませて、地元の国公立大学の前期試験で落ちた。

もっとみる

この灰は地図だったものです

学びとは自分の地図を広げていくものだと教えてくれたのは誰だったか。

賢くなって世の中や自分についての理解度が深まれば、容易く生きられる?

知識をつけて、思考力をつけて、そうして広げた地図は何を教えてくれる?

開いた地図の大きさに打ちひしがれて、真っ白な地図に怒りを覚えて、それでも足を休めるなと叱咤されて。

この世界の広さを理解できないほど愚かなら自分の小ささに怯えずに済んだのか。

この世

もっとみる

黒を裂く涙

トンネルを抜けるとそこはトンネルだった。

そんなバカなと笑ってみたが、震えるその声は反響して自分に降り注いだ。

ここまでどうやって歩いてきたか、忘れられたらどれほどよかっただろう。

トンネルとトンネルの隙間から差し込むかすかな陽の光を、出口なのだと信じて歩いてきた。

ずっとずっと、はるか後方から。

この白い光に胸を躍らせて。

陽の光が射すところにトンネルがある時点で、どうやら全てがおか

もっとみる

君の名は陽炎

救いを求めて手を伸ばしても、君の肩に触れることはできなかった。

喉を枯らして名を呼んでも、振り返ってくれることはなかった。

それでも、それでも。

君の名を呼ぶことは辞められないし、君の足跡に導かれて歩くのだろう。

眩んだこの目が光に慣れるまで。

はっと目を覚ますと、額に前髪が張り付いていた。

暑さでうなされていたようだ。

「目が覚めましたか」

隣から小声が耳をくすぐる。

汗を拭い

もっとみる

一言の寿命

大学1年生という響きで初々しいと言われるが、もう19年も自分をしていて今更その言葉はしっくりこない。

19年。

今日で19歳になった。

特に感慨もないし、誰から祝われることもない。

地元を少し離れて進学したので知り合いもいないし、誕生日を自分から広めてプレゼントをねだれるほどの明るさもなかった。

すっかり冷えた指先を白い吐息で温めながら、自販機へ向かう。

氷のような小銭を入れ、しゃがん

もっとみる