見出し画像

見えない災害

ここ数日、活発な前線の停滞により全国で広範囲に渡り激しい雨が降り、大規模な土砂災害が懸念されています。このため、メディアでは、繰り返し「命を守るための行動」をとるように呼び掛けています。

そしてご存じの通り、今東京、沖縄などを中心に起こっている、同様に深刻なもうひとつの災害が新型コロナウイルス、デルタ株の猛威です。今日は自宅療養者の診察をしている開業医の立場で、その話をさせていただきます。

この記事は4~5分くらいで読めます。

コロナは本当にそんなにひどいの?

ご存じの通り、日々新型コロナウイルスの感染者が激増しており、東京だけで入院出来ない自宅療養の患者さんが20000人を超えています。診察してみて日々痛感しているのは、東京の医療はかつて私たちが経験したことがないくらいに本当に大変なことになってしまっている、ということ。またデルタ株の感染力と症状の強さです。

ただ、1日5000人という人数が感染している東京ですが、テレビで映る繁華街の映像は当然かもしれませんがいつもと同じ平和な光景。これが私の目の前で起こっていることと余りに違うので、パラレルワールドにでもいるかのような不思議な感覚を覚えます。

大規模な地震や津波、土砂降り災害などと違い、コロナウイルス感染症による災害は静かに、多くの人の目には見えないかたちで進んでいくのだなぁ、と。今日のタイトルはそういった気持ちでつけました。

「普通のかぜ」との違い

新型コロナウイルスをインフルエンザと比較して話をする人がいますが、そういった方は実際にコロナウイルス感染症を見ておらず、患者数や死亡数を比べているのだと思います。確かにインフルエンザは日本で毎年数百万人が感染し、基礎疾患を有する高齢者が大部分ですが数千人が亡くなっています。間違いなく怖い病気です。

しかし、私も20年以上インフルエンザを診察して来ましたが、症状は大きく異なるところがあります。確かに高熱や咳、嘔気、倦怠感、といった症状はインフルエンザに似ています(ただし、症状の平均的な持続期間は倍くらいです)が、コロナでは若い人でも肺炎を起こし『呼吸の状態が悪くなる人』がとても多いのです

このウイルスの起こす肺炎は通常の肺炎とは異なり、「間質」という肺の中の細かい壁の部分に起こる炎症です。肺が真っ白の写真をご覧になったことがあると思いますが、特徴として、呼吸苦が少ない割に酸素飽和度(後述)が驚くほど低い人が多いのが特徴です(いわゆるHappy Hypoxia)。そして時にあっという間に悪くなります。これが本当に怖いです。このような症状は、インフルエンザでは殆ど見ません。

他にももっと進行するとサイトカインストームといった状態となり、臓器障害を起こして亡くなる方が増えるのでICUでの全身管理が必要ですが、私はそこまで重症の患者さんは診たことがないので今日は割愛します。

新型コロナの重症度

新型コロナウイルス感染症は軽~中等症では私たち街の開業医でも区別しやすいように、パルスオキシメーターで測定する『酸素飽和度』で判断します。酸素飽和度は、以下SpO2(エスピーオーツー)と書かせて頂きます。

■SpO2が96%以上…軽症
■SpO2が96%未満、かつ93%より多い…中等症Ⅰ
■SpO2が93以下…中等症Ⅱ

私たちが普段SpO2を測ると98~99%くらいになりますが、肺や心臓に問題がある患者さんは、もともと低いことがあります。SpO2は90%を切ると「呼吸不全」と言い、酸素が不足して結構危険な状態です。

ただ、パルスオキシメーターは簡単に測れるのは便利ですが結構誤差があるので(正確には動脈から採血をしないと分からない)、だいたい±2%くらいと思っておくと良いです。なので、中等症Ⅱの基準を90%ではなく幅を持たせて93%以下としているのです。

上記基準では、悪化の可能性の高さから中等症は入院(年齢や基礎疾患により出来れば軽度も)であり、中等症Ⅱはより高度な設備を有する病院への転院が勧められるほどです。

今の東京の惨状

報道されている通り、現在急激に増えた患者さんに病院が対応出来ず、多くの中等症の患者さんが自宅療養を余儀なくされています。更に、中等症Ⅱの患者さんには酸素の治療が推奨されていますが、治療に使う酸素濃縮器が既に不足しています。今後は命が危険な低酸素の患者さんが入院出来ず、酸素もない状態で過ごすことになります

特にここ数日は絶望的な状態で、酸素を使ってもSpO2が80%台の人たちが入院出来ず何時間も、場合によっては何日も家や救急車の中で待機しざるを得ないということが起こっています。40~50歳の患者さんは体力があるので入院すれば人工呼吸器まで悪くなっても助かることは多いです。しかし、人工呼吸器やエクモには数に限りがあります。今後そのような治療が必要な重症の方が入院出来なければほぼ亡くなるでしょう。

まとめ

新型コロナウイルスとインフルエンザの大きな違いは若い人でも悪化しやすく、特に肺の「間質」という部分の炎症で呼吸状態の悪化が目立ちます。入院もかなり難しく呼吸をサポートする酸素濃縮装置も手に入らなくなって来ており、いよいよ自宅で亡くなる方が増えそうです。

実際に目で見ていない人には信じられないかもしれませんが、東京都の医療はまともに機能していません。どうか、気を付けて。ご自分と大事な人の命を守って下さい。

最後までお読み下さりありがとうございました。Twitterでは最新の情報をツイートしていますので、よろしければご登録下さい。⇒https://twitter.com/kot2407




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?