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観光資源のない田舎の開発とは

東北に行くと決めてから、原発関連の施設と同じぐらい行ってみたい場所がありました。

それは岩手県紫波町にある複合施設オガール。

JRの紫波中央駅から2分という立地にも関わらず、町が買収してから10年間手付かずの10ヘクタールの遊休地であり、その最大の使い道は冬の雪捨て場だったそう。
それが「再生請負人」である岡崎正信さんによって公民連携の都市開発が進められ、3万人の人口に対し年間100万人も来街者が訪れるようになった、地域再生のお手本のような場所。紫波町より更に人口の少ない田舎に住む私たちですが、地方創生のヒントがあるかもと実際に泊まりに行くことにしました。

2007年から10年間に及んだこのプロジェクトはフットボールセンターに始まり、図書館・情報交流館などの公共施設、ホテル・産直を含む商業施設・バレーボール専用体育館などユニークな複合施設で、2017年のグランドオープン以後6年はテナントも常時満室でした。

観光立地じゃないのにホテルを増室!?

我々が泊まったのはビジネスホテル仕様になっているオガールインから少し離れた一室だけ用意されているテラス付きの”特別室”というやつ。その名の通り、めちゃくちゃ開放的で天井も高く、我が家のタイニーハウスより全然広かったです。ミニキッチンもついていて、夕飯はせっかくの広い部屋を楽しむべく、近所のスーパーで買ったお惣菜を広げて部屋で地酒も堪能しました。
あ、ちなみにエコ清掃に協力するとビールもいただけます(笑)

正直、近くに観光名所があるというわけでもなく視察に来る人以外でこの特別室を利用する人が誰なのかあまり想像できなかったけど、それもそのはず、オガールインの開業以来お客さんの半数は団体客。前述した体育館やスポーツ施設目当てに学生や選手が合宿や試合に利用するそうで、私たちが宿泊した日も施設内のコンビニでキャッキャとはしゃぐ若者を目にしました。

観光地じゃなくても来街者を増やせるんだ

これまでの私のイメージでは、地方創生や地域再生といえばインバウンドを含めた観光産業のに焦点を当てたものが多いと思ってましたが、紫波町はいい意味で全然違っていました。

なんでもこのバレーボール専門体育館は国内初らしくて、資材やそのクオリティにかなりこだわりを持って建てられているため、オリンピック選手の強化合宿なんかにも使われてるとか。開業当初は56室だったホテルは部屋数が足りなくなって、更に32室を追加したなんてどんだけ嬉しい誤算なんだって感じ。

住民や議会にはかなり懐疑的な意見も軋轢もあったっぽいけど、紫波町の町長と岡崎さんという強くて粘り強いリーダーシップがプロジェクト完遂に導いたんだろうなぁ。

公共施設を集客装置にする

そんなわけでホテルや施設使用料だけで年間7400万円の売り上げで、更に店舗からも1300万円の賃料という収入構造だそうだけど、滞在中一番人が多いなと感じたのは、図書館と情報交流館という住民のための施設でした。
決して派手ではないけど、個人的には気になる書籍がたくさんあって、司書の方々の手腕を見た気がしました。

隣の情報交流館も、日曜の昼下がりには市民ブラスバンドの方々が練習をしていて傍にはその音色をBGMに本を読む人もいれば、昼寝をする人もいたり、なんとも豊かな光景だなぁと心が和みます。

一方で、交流館で腰掛ける人も図書館の利用者も、そこには一円もお金を落としてないですよね。だから施設の運営としては赤字(公共事業だから当たり前ですが)のはず。通常、図書館や役所って駅から結構離れてる自治体が多いですよね。お金を生まない施設は立地を選べないというか。

しかし、オガールは逆転の発想で図書館や交流施設を集客装置にしているんだと気づきました。魅力的な公共施設が良い場所にあったら使いたくなる。そこから生まれる人流が、その施設に入るテナントの動機づけになり、そのテナントが稼ぎ続けることで賃料が入る。そしてその賃料の一部を公共施設の運営に再投資する。図書館が賑わう様子を現地で見て、その循環する経済がとても腹落ちした瞬間でした。

後で調べたらこの公共施設は木造をベースにしてコストを抑えた建設。当時の坪単価は30万円(総工費10億7350万円)!!建設業に詳しくない私でもわかるぐらい安い。身の丈にあった建築をすることの大切さは、自分の暮らしに落とし込んで考えるとよくわかる。年収400万円の人が5000万円の家を買うのが無謀だというのは一般に理解されるけど、公共工事の身の丈も同じように自治体の規模や収入を考えて計画してほしいですよね。

住んでみたいエコタウン

あと、オガールプロジェクトの一つに住宅があるんですが、この住宅も私の思想にドンピシャで、断熱性と機密性が非常に高く、その基準は北欧並み。だから建てるときのイニシャルコストは高いけど、その後のランニングコストは安くて省エネになる。何よりも住んでいて年間を通じて一定の温度が保たれる「暑くもなく寒くもない家」は住み心地がべらぼうに良い。
もし誰かがこの近くで家を探してたらめちゃくちゃ勧めるわ。

来街者と地元の嗜好性のバランス


色々と魅力が知れた良い滞在でしたが、一つだけ気になった点もありました。それは、テナントのターゲットの置きどころ。

実はオガールのテナントの一つであるパン屋さんが2024年の3月に撤退していました。聞けば製造スタッフの人員不足で営業が続けられなくなったと。さらに、ホテルの中にスノーピークの物販があったのですが、スタッフは誰もおらずもうすぐ撤退するんじゃないかって感じでした。

公共施設が集客装置となってテナントが潤う循環といっても、そこに集まるのは住民であり、その人たちが求めるものと来街者が求めるものって結構違うと思うんですよね。テナントに入ってたオシャレなハード系のパンは、外のお客さんには人気だったけど、地元の高齢者には硬すぎて不評だったり、スノーピークもキャンプ通には人気だけど、定常的に売上を継続できるほどアウトドア好きのお客さんが来るわけではない。


集客装置で集められる対象者とテナントが求めるお客さんの層を一致させながら、その場所の価値を上げるようなコンテンツを維持するのは本当に難しいだろうなと感じました。

いやー、ともあれとっても学びになりました。

皆さんの暮らすまちの図書館はどんな場所で誰が使っていますか?

そばでコーヒーを飲めたり、心地よい時間を過ごせる場所はありますか?

どんな場所だったら暮らす人と訪れる人、それを支える人(お金)が持続的に循環するでしょうか。

それではまた。


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