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11月の終わりの空気

マフラーと手袋がいよいよ手放せなくなってきた。
息を吸うと冷たい空気が肺を満たし、気が引き締まる思いがする。
それが何とも心地よく、いつもは憂鬱な通勤列車を待つ時間が楽しく感じられる。

「いうてる間に冬になってもうたなぁ」
「やっと秋らしくなってきたさぁ」

背後に立つ女性と私の言葉はほとんど同時だった。お互い思わず振り返って「えっ」と顔を見合わせた。
「それ、どういう意味?」と聞く間もなく電車が到着し、彼女と私はそれぞれ反対方向に運ばれて行く。
おそらく今後言葉を交わすどころか、顔を見ることもないだろう。
ただ指先までスッと伸びた姿に思いを馳せた。

会社に到着し、ポケットに乱雑に詰め込んだ手袋を鞄へ丁寧にしまい直す。
同僚はおはようと言いながら、私の隣りから手を覗き込むように体を曲げた。
「あれ?今日は手袋してないんだ」
「もう少し秋を感じていたくて」

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朝の通勤でのこと。
「あのお姉さんにとって良い一日になりますように」と、私はそっと願う。

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