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君にしか見えない ┃#完成された物語

君が遠くへ行ってしまってからもう1年も経つんだね。
あの子は相変わらずちょっと素っ気ないけど、健やかに成長しているよ。
いつもは学校に置き勉して身軽な状態で帰ってくるのに、今日は大きな荷物を抱えていてね。
それが何かを聞いても目をそらして、「お父さんには関係ない」なんて言うんだよ。
1年前のあの日もそんな感じだったっけ。
君が「朝ご飯食べなきゃ力でないわよ」って声をかけたら、「お母さんには関係ない」って言ったんだ。
懐かしいなぁ。
あれからあの子は毎日欠かさず朝ごはんを食べるようになったよ。
何なら僕の分まで用意してくれる。
本当にしっかり者になったよ。
話が逸れたけど、僕がお風呂に入っている間にその荷物が机の上に置いてあったんだ。
何だと思う?
1枚の絵なんだけどさ。
学校の美術の授業の課題らしくて、裏には『理想の母親』って書いてあったよ。
絵の中の、少し困った顔で食卓に座っているその人は、あの日の君にしか見えないよ。

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またまた企画に参加しました。
特定の言葉を含める縛り。
シチュエーションによって言葉の意味合いや雰囲気がガラッと変わるので、とても面白かったです。

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