マガジン一覧

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#人の家の話 3 「ほぼ100パー出ねえぞ」

2022年2月26日。アメリカ出発二日前になった。ワクチン接種証明の発行だったり、絶妙にアクセスしづらいところにある保健所で渡航届を提出したり、面倒な手続きを進めて、今日まできた。面倒な手続きを一つずつこなしても、実感が湧かなかった。 航空券を購入してからのこの間、卒論の提出もあったし、ずっと書きたいと思っていたnoteの作成もしていたし、何かと忙しなかった。あっという間の数週間だった。 アメリカ出発前に安心できるように、出発前日の明日に結果が出るPCR検査を受け、100均で

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#人の家の話 2 「え、ちょ…フロリダに来るってことは、つまり…」

年が明けて、AEWのPPVのチケットを買った。まだ航空券は取っていない。過去にシカゴ行きの航空券を買ったけど、ALL INのチケットを買いそびれるということもあったから、とりあえず先に大会チケットだけ買った。 奇跡的に三列目の中央の席のチケットを購入できた。しかもキャンペーンに選ばれて、たったの200ドルで歴史に残るであろう大会の超良い席を購入できた。 さて、思ったより安くAEWのチケットは購入できたわけだが、問題はオーランド滞在中の諸々の費用だ。日本のビジネスホテルのような

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#人の家の話 1 「高専、俺に任せな」

酔うとSNSで何か投稿する癖がある。マジでやめたい。酔いどれツイートに、酔いどれストーリー。前日の自分が攻めたツイートをしてたようで、朝起きたら海外のプロレスファンから袋叩きにあっていたことがあった。シラフの時に撮っているひみつの変顔コレクションをストーリーにアップしちゃってたのに誰からも反応がなく絶望した朝もあった。 酔いどれSNSはやめたほうがいい。でも、たまにいいこともある。全ては酔った時の自分にしかできないツイートから始まった。 * 2021年11月17日、朝。起

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感情電車

高専時代(2015-2020)

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感情電車 #0「2つ目の誕生日」

今日は2021年10月21日。十三年目の10月21日は、ワクチンの副反応と一緒にG1決勝を観戦した。37度の微熱ではあるが、大人になるにつれて発熱することがなくなったからか相当しんどい。 10月21日というのは私にとって、誕生日よりも大切な日だ。昨年の誕生日に何をしていたか思い出せないが、昨年の10月21日のことなら思い出せる。 昨年の10月21日の私は、「学生大量募集!」と謳っていたトイザらスのアルバイトの面接を受けに行ったら、普通に落とされてブチギレていた。 昨年に限った

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感情電車 #1「プロレスがなければ、平凡な夏でした。」

2015年3月16日。高校受験に失敗した。三人の年の離れた姉たちが通ってきた県内で一番と言われている進学校を受験するも、不合格という結果に至った。滑り止めに受けていた富山高等専門学校に4月から通うことになった。 高等専門学校、通称「高専」。五年制の学校。一年次から専門的な勉強に取り組むのが特徴の専門学校。全国にある高専のほとんどが理系の学科で成り立っているのだが、私が入学することになった富山高専の国際ビジネス学科は、非常に珍しい文系の学科である。ちなみに私が通うことになった富

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感情電車 #2 「濃くて薄いゴールデンウィーク」

4人姉弟の末っ子であり、一家の長男。姉弟の中で最も年が近い三女でさえ、私と九つも離れていた。両親が年を老いてから生んだのが私だった。 そんな私が、2015年の春に第一志望の高校に落ちて、滑り止めの富山高専に入学することになった。 私を女手一つで大事に育ててくれた母が、私の高校受験の失敗に悲しんでいた。三人の娘達が当たり前のように通っていた進学校に、年老いてやっと授かった長男が合格できなかったのだから、悲しくて当然だった。 「姉ちゃんらの学費で大変で、お金なくて、あんただけ塾

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感情電車 #3 「希望のロリポップキャンディ」

2015年4月9日。富山高専に入学してから四日目の朝を迎えた。第一志望で入学してくる学生がほとんどの高専の中で、私だけが魂を高校受験に置き忘れたまま登校していた。 スクールバスの車窓から眺める景色が、勤務先を目指して走る車達で溢れ返る朝の富山の中心街から、潮風で錆びた家が並ぶ海の方へと移り変わっていく。あの時間が憂鬱だった。 学校に近づくに連れて学生達の声は賑やかさを増した。バスの中で騒ぐ学生達のように、私も早く友達を作って楽しい学校生活を過ごしたいという願望はなかった。ここ

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