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恋の迷路で、さがし物は何ですか?「三四郎」 by 夏目漱石

悪戦苦闘読書ノート 第9回 夏目漱石作 「三四郎」 
発表1908年(明治41)

こんにちは。今回も、夏目漱石から、作品は「三四郎」です。
「東京の大学に入学したての三四郎が、恋をし、相手の気持ちがわからず悶々としている間に、失恋する」内容と理解しました。
不慣れな恋に、迷子のように見えた三四郎ですが、「探しもの」に真剣になっていく様が、次第にカッコよく見えてきました。

あらすじ

熊本の高等学校を卒業した三四郎は、大学に入学するため上京した。入学の直後、三四郎は、知的で、美しく、自由に生きる女性、美禰子に、恋をする。三四郎は、美禰子の気持ちを確認できないまま、彼女の発する一言や、仕草に翻弄される。やがて、美禰子は、その兄の友人と結婚する。

こう読みました

一 恋する青年
三四郎は、上京の際に、次のような無邪気な未来像を描いていました。

これから東京に行く。大学に入る。有名な学者に接触する。趣味品性のそなわった学生と交際する。図書館で研究する。著作をやる。世間で喝采する。母が嬉しがる。

その直前の個所に、三四郎が、恋愛や性的関係について、恐れを感じていることがわかる、次のエピソードが書かれています。

三四郎は、汽車が名古屋止まりのため、そこで一泊します。そのとき、相乗していた若い女に頼まれ、やむを得ず同宿しすることとなりました。翌日、苦心の末、女と何事もなく朝を迎えた主人公に、女は、にやりと笑っていいます。「あなたは、よっぽど度胸のない方ですね」と。

女の言葉は、主人公に、「二十三年の弱点が一度に露見した」ような気持にさせ、「親でも、あれほどうまく言い当てるものではない」と驚かせます。

そのような三四郎が、上京してすぐに恋をします。ある見知らぬ女性(美禰子)の目を見た瞬間、三四郎は、汽車の女に「度胸のない方ですね」と言われたときの感じと似ている、と呆然とします。そして、美禰子との偶然の再会により、「魂がふわつきだす」のです。

当初は、悶々とするだけの三四郎でしたが、やがて恋する男にふさわしく動き出します。美禰子との共通の知人との会話では、アンテナを張って、美禰子に好意を持つ男や、美禰子の意中の人物をさぐります。それ以上には進めない三四郎ですが、美禰子の発した言葉や、その仕草や行動を振り返り、その意味を考え続けます。

二 悶える男たち
美禰子は、三四郎だけでなく、その友人や知人たちの間でも、「新しい女性」として関心の的です。男たちは、彼女の美貌に惹かれながらも、その才気や自由気ままな様子に、自分の手には負えないと感じています。

また、本作では、度々イプセン(本作では「イブセン」)が引き合いに出されています。例えば、三四郎の友人、佐々木与次郎の言葉です。

イブセンの人物に似ているのは、里見の御嬢さんばかりじゃない。今の一般の女性はみんな似ている。女性ばかりじゃない。いやしくも新しい空気に触れた男はみんなイブセンの人物に似た所がある。ただ男も女もイブセンのように自由行動を取らないだけだ。腹のなかでは大抵かぶれている。

この言葉から、「やってはいけないことを、やってしまうかもしれない」「自分からは超えられないが、誘われたら超えてしまいそう」という怖れが伝わった気がしました。そして、当時の倫理的制約の厳しさと、自由な行動への期待の拮抗に、緊張を感じました。

感想

夏目漱石は、三四郎が恋する美禰子を、「無意識の偽善者」として書いたそうです。漱石の言葉によれば、

その巧言令色が、努めてするのではなく、ほとんど無意識のうちに天性の発露のままで男を虜にしてしまう

ということです。そこで、美禰子は、「三四郎のことを多少なりとも好きだったのか?」と疑問が生じます。すべてが無意識での媚態だったのか?あるいは、最初に出会った時の鮮明な記憶を持っていることから、多少は気にかけていたのか?ということです。

私には、今のところ答えが出ません。よって、私の三四郎も、美禰子の真意を、探し当ててはいません。ただ、私の三四郎は、「自由闊達な新しい生き方をするに相応しい彼女が、その意思とは関係なく結婚した」ことで、恋の終わりを、納得しようとしているようです。

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